第31章 忍び寄る終焉※
きっとほの花のことが大切だと思っているのは間違っていないけど、ほの花が自分の命を軽んじている分まで大切にしている気がする。
「それより一気に大量に血を抜かれたせいで貧血になっちゃってさ。ふらふらで大変だった…」
「えええ?!大丈夫じゃないじゃないか?!よ、横になるか?!」
「今は大丈夫。その時だけの話で増血剤も飲んだし平気。」
聞けば聞くほど危なっかしい。
ボロボロの吊り橋をドタドタと全力疾走で走っているような綱渡り感
「だけどね、あまりの貧血で視点が定まらなくて怪我人の手当てすら出来無さそうだったから自分で足を刺したの。これはね、その時の怪我。自分で刺したから加減してるし大丈夫だよ。」
「……………(絶句)」
この子は…本当にいつか死ぬ
そしてそれを少しも怖がってない
そうか…やっぱり音柱って人はほの花がこんな感じだから溺愛してるんだ。
自分を大切にできないほの花の代わりにほの花を大切にしてる。
「え…そ、そんな余計に貧血になりそう、だけど…」
「そこは増血剤飲んでるから大丈夫だと思ってね。だけどあの時は痛みで気を紛らわせないと医療班としての任務を遂行できなかった。我ながら馬鹿なことをしたと思ってるけど背に腹はかえられぬってやつよ。」
ああ、良かった。
内容自体はまずいと自覚しているようでホッとした。ほの花は医療者の分、自分の体をよく知っているのだろう。
このくらいなら大丈夫という絶妙な頃合いを俺のような医学な知識がない人間と違い、わかっている。
だから此処まで無茶だと思う行動もやってのける。
ギリギリを攻めているんだ。
生きるか死ぬかのギリギリを攻めることができるのは自分の医学の知識を信じているから。
周りから見たら危なっかしくても彼女の中では確信があるのだろう。それがよくわかる。
「あんまり…無茶しないでよ?今回は助かったから良かったけど…」
「そうだねぇ、今回は本当にまずかったから気をつける…。おかげで言い訳するのが大変で…嘘で塗り固められたことがつらい。」
ほの花からツラそうな匂いがしたのはこの時だけ。
自分の体のことより誰かを欺いてしまったこと。それが彼女の中で一番ツラいことなんだ。