第31章 忍び寄る終焉※
部屋から薬箱を持って担ぐとそのまま客間に向かった。単純に考えてわざわざ私の薬のためだけにきてくれたのは嬉しい。
宇髄さんが褒めてくれるとは別の嬉しさがあるからだ。
襖を開ければ派手な髪色の彼が自信に満ち溢れた顔で迎えてくれる。
『自信を持て』
自信がないわけではない、が…あるわけでもない。私が自信のある部分は母の残した薬事書の部分だ。
でも、それは自分の自信ではない。
母を薬師として信頼していたから。
その薬事書に絶大の信頼を寄せていたからだ。
だからその部分の薬に関しては物凄く自信があるが、ここにきて薬を任せられるようになり、自分なりに勉強して実践で得たモノを活用して調合を変えたりしている。
基盤となる母の調合は自信がある。
上乗せした自分の調合はまださぐりさぐりの状態だから自信は持てないでいるのかもしれない。
それでも自分の薬を信用すると言ってこうやって取りに来てくれた煉獄さんに報いたいと思うのもまた薬師としての責務なのだろう。
「お待たせしました。」
「うむ!宜しく頼む。」
煉獄さんの目の前で薬箱を下ろすと彼に向き合う。
「傷薬だけでいいですか?もし良ければ痛み止めなどもお渡ししましょうか?」
「それは助かるな!是非ともお願いしたい!」
「では、傷薬の他に痛み止め、あと打身や筋肉の痛みを和らげる湿布薬もお持ちください。」
柱の人は宇髄さんも含めていつも鍛錬に余念がない。生傷は絶えないので、普段使うような外用薬がたくさんあって損はない。
「すまないな。そんなに貰えるならばもっと甘味を買ってくるのだったな。また持ってこよう!」
「ええ?!良いんです良いんです!お気持ちだけで!」
「これが俺の気持ちだ。今度は宇髄がいる時に訪ねよう。誤解されてもたまらんからな。」
柱の人は信頼してるから大丈夫だとも言っていたけど、煉獄さんが少しだけ眉を下げたので私も苦笑いを向けた。
「もし良ければ今度父と弟にも届けたいのだが、頼めるだろうか?」
「え?それなら今…。」
「いや、実は今から任務に行くところなのだ!帰ってきたら頼みたい。いいだろうか?」
任務前に来てくれたのか…!そうだとは思わずのんびり薬の準備をしてしまい、余計な荷物になってしまうことをしてしまった。