第31章 忍び寄る終焉※
珠世さんと愈史郎くんの姿を見送ると、自分の体と向き合う。
──ただの貧血です
そう。ただの貧血だ。
しかし、勢いよく血を抜き取ってもらいすぎた。(指示したのは自分)
抜いた血の量も多すぎた。(了承したのは自分)
解毒はできているようだが、急激に体温が上がったり下がったりしたせいで血圧も上がったり下がったりしたのだろう。頭が痛い。(自業自得)
要するに自己責任だ。
しかしながら、直に怪我人が来るかもしれない。私は薬箱の近くまで這うようにして向かうと息を吐いた。
目がチカチカするし、目眩がする。
怪我人の前に自分が増血剤を服用した方がよさそうだ。まぁ、すぐに効くようなものではないけども。
いそいそと増血剤を薬箱から探し出すとそれを口に含み、掻き集めた唾液で嚥下するけど、あまりの苦さに涙目になる。
(…相変わらず、自分の薬の不味さに泣けてくるわ…)
口の中の苦さが緩和してきた頃に遠くの方から「神楽さーーん!」と言う声が聞こえてきた。
そちらの方向に視線を向けて目を凝らして見てみれば怪我人を背負った隊士の人が走ってきていた。
その瞬間、体勢を立て直し何とかその人を受け入れようとするが、やはり目がチカチカして動くだけでフラつく。
こんな体では助けられるものも助けられないかもしれない。アドレナリンが出ていればこの状態を脱することが出来るかもしれないが…。
浮かんでくる考えが危ないものだからこそ、迷ってしまうのは仕方がないとは思うがそんな時間はない。
私は内腿に隠している小刀を取り出すと自分の足を切り裂いた。
すぐに止血のため包帯をぎゅっと結んでおいたが、この作戦は完全に背に腹はかえられない身を犠牲にした対症療法でしかない。
目がチカチカとするのを痛みを加えることで意識をそちらに持って行かせないための苦肉の策。
貧血の症状でちゃんと救護できないなんて最悪だ。とにかく治療さえできればあとは止血すれば大丈夫な程度の切り傷にしてある。
手元が狂って患者を更に重傷にさせるよりマシだ。この捨て身の作戦があとで宇髄さんに怒られようとも今は人命が大事だ。