第31章 忍び寄る終焉※
ほの花をやっと腕の中に収めたと言うのに他愛もない話をしているとすぐに胡蝶の足音が聞こえてきて舌打ちをした。
こういう時、ほの花の洞察力はすげぇ。
瞬時にそれを読み取り、俺の足の上から抜け出して隣に行儀良く座り出した。
「…ちぇっ…、此処に来るより家で待ってて押し倒した方が良かったか。」
「なぁ?!な、何言ってるんですかぁ!!」
「恋人を放置するお前が悪ぃ!!」
"放置してなんかいない!"とポコスカと胸を叩いてくるほの花だが、此処に来た理由はどうせ竈門炭治郎達と話したかったんだろうし、十分に放置に値すると思うけどな。
それでも目を涙目にさせて否定してくるほの花の破壊力にタジタジになったところで胡蝶が襖を開けた。
その瞬間、固まったのは胡蝶だけではない。
涙目で俺をポコスカと叩いていたほの花も固まって湯気が出そうなくらい全身が赤く染まっている。
「…ふふ。相変わらず仲がよろしいですね。」
「まぁな。」
「今、食事を運んでもらいますのでお待ちくださいね。ほの花さんも足を崩して楽にしていてください。」
「あ、…ありがとう、ございます…。」
さっきの勢いはどこへやら。隣で小さくなってしまったほの花の頭を撫でてやると涙目で見上げてきたその可愛さにまたもや俺はグッときてしまったが、必死に耐えた。
此処は蝶屋敷だ。
手を出すことは許されない。
そう言い聞かせて心を無にしていると、いつの間にか運ばれてきた食事と目の前には胡蝶の姿。
「さ、いただきましょ?冷めないうちに。」
それにしてもいきなり俺まで誘って昼餉なんてどんな風の吹き回しだ。
柱同士は別に仲が悪いわけではないが…いや、悪い奴らもいるか。
ただ俺はどいつも別に嫌いじゃない。
それでもこうやって食事を共にすることは多くはない。
何かの験担ぎでもしているのか?
目の前にはトンカツがからりと揚がって湯気が出ているし、味噌汁がいい匂いをさせて鼻腔を刺激していた。
「いつ死ぬかわかりませんからね。私たちは」
「……は」
「だから悔いが残らないようにするために適度にこうやって食事でもしておかないと、と思いまして。」
ふざけてる様子も見受けられないので俺はそのままの言葉を受け入れた。
誰もが死と隣り合わせ。それが鬼殺隊だ。