第31章 忍び寄る終焉※
炭治郎はぽつりぽつりと思い出すように珠世さんとの出会いとその時怒ったことを教えてくれた。
珠世さんは炭治郎には鬼舞辻無惨に近い強い鬼の血を取ってきてほしいと頼んだらしい。
そして私には陰陽師の女子だけに備わる特有の稀血の血を。
この血を調べることできっと珠世さんは鬼舞辻無惨を倒すための何かを作ろうとしているのだろう。
「そっか、なるほど…。やっぱり…珠世さんは血を調べて何かをしようとしてるんだね。」
「うん。禰󠄀豆子を人間に戻す治療法を確立させるって言ってくれたんだ。それに…珠世さんは悪い人じゃないよ。嘘偽りのない清らかな匂いがしたんだ。」
炭治郎はふっと笑うので私も表情を和らげる。
珠世さんは悪い人じゃない。
それは私も何となく分かっていた。
だけど、もう一人そうやって言ってくれるだけで随分と気が楽だ。
「あはは…!炭治郎は鼻が効くもんね。それは信頼できそうだわ。」
「ちゃんと聞いたことなかったけど…、ほの花も鬼に恨みが…?」
「あ…うん。そうだね…。炭治郎には言っておかないとね。」
ちゃんと私に腹を割って禰󠄀豆子ちゃんのことも珠世さんのことも話してくれていると言うのに私はちゃんと話せたことはない。
稀血のことは避けて、ちゃんと話さないと平等じゃない。
すっかりこの話をするのは久しぶりになっていたけど、私は陰陽師の里で鬼の襲撃に遭い、自分以外皆殺しにされたこと、自分が最後の陰陽師の生き残りのことを包み隠さず話した。
もちろん今も悲しみはある。
思い出すと気持ちが滅入ることもないわけではない。
でも、その気持ちはだいぶ薄らいでいることは明白。
ふとした瞬間に思い出すのは家族の顔ではなく、宇髄さんの顔。
私の日常は大好きな人によって少しずつ少しずつ上書きされていったのだろう。
悔しい気持ちはある。
やはり敵討ちをしたいとは思っている。
ただずっとそばにいてくれた愛おしい人が私の心を満たしてくれているから。
鬼舞辻無惨という男は鬼殺隊だけでなく多くの一般人の人生も狂わせてきた。
そんな暴挙を許すわけにはいかない。
私だってどの鬼が里を襲ったのかは分からないけどちゃんと仇を打って胸を張って生きていきたい。