第31章 忍び寄る終焉※
でも、そんなこと言えない。
陰陽師の件を詳しいことはあまり他言しないということになってるし、今の気持ち的に言い訳みたいになりそうで言いたくない。
「あー…うん。最近、仲の良かったお姉さんみたいな人が引っ越しちゃって寂しくて…。それだけ。」
嘘はついてない。
瑠璃さんがいなくなって寂しいのは本当だ。だから任務再開したことで気が紛れて良いとすら思っていたのだから。
「そっかぁ…。それは寂しいね。でもさ、またきっと会えるよ!生きてれば会う機会はいくらでもあるよ!」
「そうだよね…。うん。ありがとう!そ、そうだ!炭治郎に聞きたいことがあったの!」
「聞きたいこと?」
これ以上詮索されたらボロが出そうで私は早々に話題を切り替えることにした。
いくら炭治郎がいい子でも陰陽師の詳しいことを迂闊に話すことはできない。
「うん!そうなの。あの、…柱合会議の日のことなんだけど…。」
「柱合会議…、ああ!柱の人たちがたくさんいたあの日のことだね?うん?」
「産屋敷様が炭治郎に『珠世さんに宜しく』って言ったよね?それって…''鬼"の珠世さん…じゃないかと思って…。」
「?!」
炭治郎は分かりやすい。
明らかに動揺して目を泳がしている様は"そうです"と言っているようなもの。
でも、私に咎められるとでも思ったのだろうか。先ほどまでの溌剌とした様子は身を潜め、私の様子を窺っているように見えた。
だから私から話すことにした。彼を安心させるように。
「…あの、私も知ってるの。珠世さんのこと。他の人には言ってないけど…。」
「え…!!ほの花も?!」
「うん…師匠…宇髄さんにも言ってない。」
「そ、そっ、か…。」
そう言ったきり私たちの間には暫く、沈黙が流れた。
やましいことはない。
もちろん鬼殺隊を裏切るようなことはしていない。
それでもお互い腹の探り合いではないが、どちらも一言も発することができなかったと思う。
素直で裏表のない炭治郎でさえ、こんな風に言い淀むくらいなのだ。
私たちのいま知り得ている情報は他言するようなものではないということは明らかだ。
お互いの内容は違うかもしれないが、鬼と協力し合っているのは事実なのだから。