第1章 はじまりは突然に
「え…、あ!!貴方は…!」
思わず産屋敷様より前に出て彼を凝視してしまった。当然、彼は私を見て目を見開いて驚いていたが、彼より先に言葉を発したのはすぐ後ろにいた産屋敷様だった。
「あれ、ほの花は天元を知っているのかい?」
その声で漸く自分が出しゃばるように前に出ていたことに気づき慌てて頭を下げる。少数精鋭の"柱"と呼ばれる彼らでさえ跪き、頭を垂れている様子にいかに産屋敷様が敬われているかを潔く理解する。
失礼なことをしてしまったと落ち込んでいる間も無く、質問に答えるため向き合った。
「知ってる…と言いますか…、先ほどとてもご迷惑をかけてしまい、御礼をしたくて探していた方なのです。」
「そうだったんだね。では、後でゆっくり話すといい。皆、よく来てくれたね。同じ顔ぶれでまたここで会えて嬉しいよ。」
"柱"の一人が仰々しい挨拶をすると一気に自分に注目が集まり、思わず俯いた。
少数精鋭というだけあってピリピリとした言いようの無い緊張感が走る。
「…お館様。藪から棒に失礼なことをお聞きしますが、そちらの娘は?」
一番大きな体の男性が産屋敷様に質問したことで余計に視線を一心に受けて穴があったら入りたいほどの羞恥心を伴う。せめてあの護衛三人も此処に来てくれていたら良かったのに…。
残念ながらぞろぞろと行くものでもないだろうと思い、先ほどの場所で待ってもらい、一人で来たのが間違いだった。
「彼女は古くから産屋敷家と付き合いのある薬師の娘の神楽ほの花さん。鬼の襲撃を受けて、隠れ里がほぼ全滅してしまったそうで僕を頼って此処に来てくれた。皆にも紹介しておこうと思ってね。」
碌に"柱"の方々の顔も見れずにただただ頭を下げていたが、紹介してくれたことで突き刺すような視線が幾分柔らかくなったのを感じた。