第1章 はじまりは突然に
「そうでしたか。ご両親を…おいたわしや…。してお館様の薬師殿と言うことですが、今後の薬は大丈夫なのでしょうか。」
大きな男性はそのまま言葉を続けるが、余程産屋敷様を大切になさっているのだろう。心配そうに彼を見つめた。
彼の視線を受けると産屋敷様は私の肩にトンと手を起き、にこりと微笑んだ。
「…多分、ね。ほの花、君は薬師としては…?」
私…?
私は…薬師として母に散々厳しく仕込まれてきたが、自信がなかった。ただでさえのほほんと生活してきたのだ。戦いの実戦ですら先日父を手にかけた時が初めて。
薬の調合は母に頼まれた時しかやったことはない。それも家族の薬や馴染みの里の住人など顔見知りばかり。
自信などない。それでも此処に居るためには存在意義が必要だと瞬間的に悟った。母が残した薬事書を見ればできるはず。
いや、出来ないといけない。やるんだ。
「…母から仕込まれた全ての知識を総動員させて産屋敷様にお仕え致します。どうかお薬のことはご安心を…。」
「…だってさ。行冥。彼女は鬼と化したお父上を自ら手にかけた。鬼殺隊としても十分通用すると思っている。だからこそ僕は彼女を何の迷いもなく受け入れた。皆仲良くしてあげてね。」
産屋敷様の言葉を受け、「御意」という肯定の返事が聴こえたことに安心してまた涙が込み上げた。
父を討ったとき、この罪を一生償っていくと思っていた。
しかし、自分のことを受け入れて"間違ってないよ"と言われたようで心の底から打ち震えた。父を自ら手にかけたことは一生忘れることはないだろう。
それでも、私は神楽家の生き残りとして産屋敷様にお仕えしようと心に決めた。
そうすることがせめてもの私の贖罪であると思ったから。