第1章 はじまりは突然に
産屋敷様の話はとても興味深かった。
鬼という存在も。
鬼の首を斬る日輪刀のこと。
"鬼殺隊"という鬼を討つために集められた討伐部隊がいることも。
その中でも少数精鋭の"柱"と言う存在も。
静かに
穏やかに話す彼にその空間だけが時が止まったかのように見えた。
渡した薬を喜んでくれたが、"そう長くは生きられない"と寂しそうに笑うので胸が張り裂けそうだった。それが運命だとしてもせっかく出会えたと言うのにまた人が死んでしまうのかと思うと眩暈すらする。
「そうだ、ほの花。今日はたまたま柱合会議があるんだ。もし良ければ柱に君を紹介させてもらってもいいかな?」
半年に一度行われるという会議が今日開かれると言う。本来ならば私のような者が出るべきことではないだろう。
しかし、人を喰らった父もとい鬼を切ったことは紛れもなく鬼殺隊として相応わしいと言ってくれて、彼の後ろに付いていった。
そもそもそうなると私はあの時どうやって鬼を倒したのだろう。
腰に携えている舞扇は武器にもなるが、元々は舞を踊るためのものの筈。こんな物で鬼の首を切れるのだろうか?
それが違うとなれば式神でも使ったのだろうか。陰陽道を使って戦うとなれば式神を使うのは特に驚かないが、あんな一瞬で使い慣れていない技が上手くいくとは思えない。
良くも悪くも私にとって戦いの場はあまりにも慣れない場所。つい先日まで平和な日常を送り過ぎていたため、今の状況はまさに晴天の霹靂。
頭が未だに追いついていないのだ。
前を歩く産屋敷様の方が私よりもよっぽど状況を理解していることだろう。
彼の歩みのすぐ後ろに控えて、そのまま広い廊下を通り、襖を開けると大広間のようなところが開け放たれて再び綺麗な庭が目に入る。
しかし、綺麗な庭に視線を奪われることなく、目に飛び込んできたのは会いたくてたまらなかった人の姿だった。