第31章 忍び寄る終焉※
音花の呼び出しは蝶屋敷での怪我人の応急処置の依頼で、私は宇髄さんに脱衣所から声をかけて「行ってくる」旨を伝えた。
すると、予想していたようで「やっぱそうか。気ぃつけていけよ。」と返してくれた。
と言うことは…宇髄さんの鬼狩りの班だったのだろう。
刀鍛冶の里から帰ってきてから蝶屋敷で救護依頼を受けるのは初めてのこと。
久しぶりの仕事で独特な高揚感を感じた。
どうやら今日から任務再開なことは皆周知のことなのだろう。
頼ってもらえるのは嬉しいし、頑張ろうと思えるのだから、やはり私は薬師の仕事が好きなのだろう。
薬箱を引っ掴むと隊服を身につけて大急ぎで蝶屋敷に向かった。
最近の隊士不足は深刻だと言っていたが、医療班にまでそれが及んでいたのは間違いないだろう。
そうでなければ、休み明け早々に呼び出しを受けないはずだ。
蝶屋敷まで全速力で走れば、十五分程度。
門に飛び込むように入ると庭付近にも怪我をした人が数名横たわっていて、人の手が足りないのは明らか。
近くにいた子に「蟲柱様に私が到着したことをお伝えして下さい」と伝えて、まずは庭にいた血だらけの隊士の人達の応急処置を始める。
致命傷はなさそうだけど、余程激しい戦闘だったのだろう。
宇髄さんは怪我をしていなさそうだったけど、それだけでも一般隊士との力の差が歴然なのだと分かる。
私でも怪我していたかもしれない。
切り傷に止血剤を塗り込み、大きな傷は縫合。
出血が多い人はまず圧迫止血。
痛いと訴える人には可哀想だけど私が作った不味い痛み止めを飲んでもらう。
無心で応急処置をしていると、いつの間にかいつもの静かな蝶屋敷に戻っていて、後ろから「ほの花さん」と声をかけられた。
「あ!しのぶさん!」
「助かりました。ありがとうございます。」
「いえ!そんな…お役に立てて良かったです。」
「あなたが今日から仕事復帰だと宇髄さんから聞いていたので図々しいかと思いましたが、ごった返していたのでお呼びだてしてしまいました。」
ああ、何だ。
宇髄さんが言ったのか。
それが分かればやっと腑に落ちて口角が上がる。
戦闘に出すのはあんなにも毛嫌いするくせに、薬師としての依頼は快く受け入れてくれる。
頼りにしてくれているのは嬉しいけど、少しは戦闘にも出させて欲しい。
腕が鈍ってしまうではないか。