第6章 君思ふ、それは必然
掴まれた腕を離してくれないのだが、それを振り払うのは簡単のこと。ただ、最近宇髄さんとの鍛錬をしすぎていて、一般人にどれほどの力で振り払ったらいいのか分からず、傷害事件になってしまうのではとビクビクしているのだ。
「あ、あの…き、清貴さん…?とりあえず離してくれないですか?」
「何故?え、まさか今良い人がいる、とか?」
「……い、いません、けど」
嘘でも吐けば良かったのだろうか。
だが、私は超がつくほど馬鹿正直だとわかっている。こんな時でも頭に思い浮かぶのが宇髄さんで泣きたくなってくる。
想っていたってどうしようもない人を想い、
想ってもらえる人に気持ちはない。
皮肉なものだ。
まぁ、この人も本当は私の背丈が気に入らないのだろうけど。
ほぼ変わらない目線が絡み合うと一昨日言われた言葉が頭を埋め尽くす。
"もう少し小さかったら…"
はっきりと言われて物凄く悲しかった。
だけど、そんなこと言われたとしてもそれよりも宇髄さんに恋をしてしまったことの方が何倍もつらくてたまらないのに、心はこんなにも潤っている。
たとえ実らなくても、彼を想うことが自分の幸せなのかもしれない。
彼の笑顔を近くで見られるならば継子でもいいじゃないか。
憧れた"結婚"も、好きでもない人とするのであればただの地獄だ。
「でも、好きな人が、いるので…、ごめんなさい。」
「…え?」
言葉にしてみたらスゥッと胸に入ってきた。そうだ、私は宇髄さんが好きなんだ。
だったらこんなところでこの人のところに嫁ぐわけにはいかない。
「清貴さんも本当に好きな人と結婚してください。」
「…君みたいな大きい女性を相手にする人がいるかな?」
「そんなこと…気にする人ではないと思います。」
そう。問題はそこではない。
彼は私より大きいし、そもそもそんなことで女性を差別したりしない。
「僕にしておきなって。絶対幸せにするよ。」
そう言うと思いがけず強く腕を引っ張られて前につんのめりそうになったところを逞しい腕が受け止めてくれた。
それが誰かなんて顔を見なくても分かってる。
彼の匂いが私の鼻を掠めたから。
「…宇髄さん。」
でも、彼の名前を呼んでしまえば、温かくなった心が勝手に目頭に涙を生成するんだ。
好きで好きでたまらない。
あなたを想って涙が止まらない。