第6章 君思ふ、それは必然
お遣いに来ただけだし、彼の注文個数など知る由もないが、この店主が失念してる可能性もあるのだから念のため聞いてみることにした。
「…あの、すみません。一つだけですか?」
「え?はい。注文を受けたのはお一つですが?」
「そ、そうなんですね。失礼しました…!えとお代は…!」
「代金は頂戴しておりますのでこのままお持ち帰り下さい。ありがとうございました。」
そう言われてしまえばこちらが言えることは何もない。私は傷が付かないように持ってきた風呂敷に包むと店を出た。
ひょっとして誰か誕生日なのだろうか?
もしそうなのだとすれば、宇髄さんも教えてくれたら良いのに!私もいつもお世話になってる奥様たちのお誕生日ならば贈り物でもしたかった。
「あ、ほの花様。おかえりなさい。」
「…ねぇ、今日って奥様たちの誰か誕生日なのか知ってる?」
「何ですか、藪から棒に。」
「だって奥様たちの贈り物なのに一個しか頼んでないなんておかしくない?誰か誕生日なんじゃない?」
宇髄さんはあの三人を平等に接しているし、誰か一人を贔屓するような人ではない。だからあそこまで三人が三人とも宇髄さんを信頼しているんだ。
だから贈り物をする上で、ひとつだけだなんて理由がないと可笑しい。
「って…、知るわけないか。ごめんごめん。帰ろ。」
「確か…雛鶴さんはまだだったと思います。」
「まきをさんも違ったかと…。」
「須磨さんもそんな直近ではありません。」
「…何で知ってんのよ。まぁ、いっか。お遣いはできたし…。」
まさか三人が三人とも奥様たちの誕生日を把握していたことには驚いたが、誰も誕生日ではないということが返って謎が深まるばかり。
よく分からないまま贈り物の花飾りを大切に懐に収めると元来た道を帰る。
しかし、今日、町に着たくない理由が別にあったことを私はすっかり失念していて、回り道をして帰らなかったことをこの数分後物凄く後悔することとなった。