第6章 君思ふ、それは必然
持ってきた綺麗な箱を店主の男性はそのまま私に差し出してきたので狼狽えながらもそれを受け取る。
「念のため中身の確認をお願い致します。」
「え、あ…は、はい。」
流れで了承してしまったが、私が確認したところで何を注文したかなんて知らないし、奥様より先に見てしまって良いのだろうか?と一抹の不安が過ぎる。
しかし、店側としても間違った商品を渡すわけにもいかないのだからこの流れは至極当然の流れなのだ。
致し方なく、手渡された箱に傷がつかないように細心の注意を払いながら開けてみる。
「…わぁ、可愛い…。」
自分の物でもないのに思わず感嘆の声が出てしまったが、それを聞いて店主の人が嬉しそうに微笑んだ。
自分の小間物屋の品を褒められればそれはそれは嬉しいことだろう。
箱の中には白い花にリボンがあしらわれた花飾りで、リボンの素材は着物の帯のような繊細な刺繍がしてあるものと母がよく気に入ってつけていた透けている素材の生地が二種類使われていて、とても美しい。
「ありがとうございます。妻が買い付けたものなんです。」
「そうなんですか?とても品が良くて素敵です!」
「この素材はモスリン(シフォン素材)と言って異国の地で人気のようです。まだこの国では珍しいですよ。」
ああ…。そうか。
確かに私からしたらとても懐かしいと感じる素材もそれは母が異国の地出身だからこそで町で見かけることは少なかった。
少しだけ母のことを思い出すと感傷的になってしまったが、それと同時に最期の言葉が蘇る。
『素敵な殿方を見つけて幸せになってね。』
こんな素敵な物をもらえるような殿方を見つけるのはまだまだ先のようだけど、そこで最初に頭に浮かんでしまうのが宇髄さんで私はその場で頭から振り払う。
駄目駄目。
私じゃない。
箱の中身を確認して、再び慎重に箱を閉じると疑問を感じた。
(…あれ?一個だけ?)
店主が持ってきたのはこの箱一つだけで、彼の手元を見ても他の物は見当たらない。