第31章 忍び寄る終焉※
刀鍛冶の里はほの花が帰ってからあっという間に日常に戻っていった。
最初の仕事が竈門炭治郎という餓鬼が俺の刀を折りやがったから修理するという何とも腹立たしいもので、見つけたら八つ裂きにしてやろうと久しぶりに里から出てきた。
指定された町がほの花のいる町だということは風の噂で知っていたが、住所を聞いていたわけでもないので会うことは困難だろう。
しかし、俺の刀を折りやがった不届き物を追いかけ回すこと小一時間。
まだまだ追いかけ回してやろうと思っていたのに聴こえてきた会話に足が止まった。
「あ!音柱様!こんにちは!」
…音柱様?
それは忘れもしない名前。
ほの花から鬼殺隊の柱が恋人だということは聞いていたが、帰ってから鉄珍に聞いたのだ。
"宇髄天元"という男が『音柱』だということを。
一度聞いたらふとした時に思い出すほどに覚えている。
どんな男だと興味津々だったからだ。
ほの花があれほどまでに惚れ込んでいる男がどんな野郎なのか。
「……音柱…、宇髄…天元。」
無意識に口から漏れ出たのは自分にしか聞こえないほど小さなもののはず。それなのに呟いた瞬間、こちらを睨みつけるような視線を向けて間髪入れずに苦言を呈してきた。
「あ?何だよ。呼び捨てにすんな。派手にぶち殺すぞ。」
耳の良さは流石柱なのだと言わざるを得ないが、態度は横柄で高慢。
謙虚でいじらしいほの花とは結びつかない。
しかし、宇髄天元という男が二人いない限りコイツがほの花の恋人であることは間違いない。
どうこうするつもりは無かった。ただほの花が元気なのかは気になった。
アイツがこの男の元で幸せなのに引き離してどうする。ただ泣かせることになるだけだ。
だから「ほの花は元気か?」と要件だけ聞いたつもりだったのに返って怒らせたようで、そのデカい図体からは痛いほどの殺気を感じた。
なるほど、流石は柱だ。
戦いに関しては素人の俺でもこの男が強いということだけは分かる。
ひょっとこのお面を外せと絡んでくるその様は輩だが、鬼殺隊の柱になるのに人柄は関係ないのだろうとため息を吐いた。