第30章 "初めて"をください※
目が覚めると既に見慣れてしまった天井。
宇髄さんの部屋だ。
壁に目を向ければ時計が目に入るが、眠りが浅かったのか自分が寝ていたのは僅か15分程度だということが分かった。
まぁ、先程外で宇髄さんの腕の中でぐーすかと寝てしまったのだから当たり前かもしれない。
それでも彼が近くにいてくれて、痛み止めを飲んだことで微睡んだ意識は一瞬で眠りに誘われたのだが、こんなに早く目が覚めてしまっては困惑してしまう。
部屋の中を見渡しても宇髄さんの姿はない。
いつも寝込んだ時とかは時間が許せばずっとそばにいてくれると言うのに、今回はいない。
突然目の前に蝉がいて頭が真っ白になってしまったため、あんなにも喚き散らしてしまったのがひょっとして嫌になったとか…?
そんなことで嫌になったりしないと思いながらも不安に思ってしまうのは、自分だったらこんな女嫌だからだ。
布団の上で膝を抱えてぼーっとしていると後ろの襖が開いた。
そこは縁側に続く襖で、了承もなく此処に入って来れるのは一人しかいないのだから自ずとそれが誰なのかはすぐにわかる。
でも、後ろを振り向くことができずにいると、すぐに近寄ってきてくれた宇髄さんが優しい眼差しを向けていることに気付き、たまらずに抱きついた。
想いの丈を述べてみれば、優しく抱きしめてくれてトントンと背中を撫でてくれる宇髄さんにやっと満たされていく。
ドキドキと煩かった心臓の音も落ち着いていくのが分かり、体の力も抜けていった。
「ほの花はまだ俺のこと全然信用してねぇなぁ〜?ンなことくらいで嫌いになるかっつーの。」
「そ、そうだけど…、いつも起きたらそばにいてくれるのにいなかったから…。」
責めてるわけではないのに、理由を言ってしまったら責めてるようにも聞こえてしまう。しかし、こぼれ落ちた言葉はもう拾うことは不可能で、彼の答えを待つことしかできない。
気まずくて下を向きながら唇を噛み締めていると、宇髄さんもまた気まずそうに言葉を選んでいた。
「あー、正宗たちのところに行ってたんだよ。聞きてぇことがあって。」
「聞きたいこと…?」
抱きしめてくれながらも宇髄さんはバツが悪そうに苦笑いしてくれているのがわかる。
気になって体を少し離して見上げてみればいつもの優しい笑顔がそこにあった。