第30章 "初めて"をください※
蝉の一件が片付くと興奮していた気持ちが冷めてきたかと思ったら今度は腹部に独特の痛み。
それが何なのか女子ならば誰しもが分かると言うモノで。
経口避妊薬を飲んでいると周期が安定していたのでそろそろかなと思っていた。だから腹痛の意味も、時期にも不満はない。
それでも蝉のせいでいくら機嫌が悪かったとは言え、宇髄さんに当たり散らしすぎたかもしれない。
"一週間シない"と言ったのは最初は売り言葉に買い言葉みたいに多少冗談もあった。
だから宇髄さんが縋ってくれると簡単に絆されかけていたというのに、よりにもよって忍び寄るように出てきた鈍痛にため息を繰り返す。
"もう帰る"なんて言ってしまったけど、本当は痛み止めを飲んででも、もっと散歩したりしたかった。私が寝てしまったからいけないけど、現状を作り出したのは自分の責任だ。
「…ほの花〜、大丈夫か?月のモノっつーなら無理強いしねぇからよ。許してくれよ。な?」
「……うん。」
「腹痛ぇなら抱えてやるぞ?」
「…大丈夫。手、繋いでほしい…。」
そう言って差し出した手を宇髄さんは優しい笑みを浮かべながら握ってくれる。
あんなに罵ったのにこんなに優しくしてくれて申し訳なさが募るけど、蝉が怖かったのは本当なので引くに引けなくて、チラッと様子を窺う。
「帰ったら痛み止め飲もうな?」
「…うん。」
「蝉怖かったんなら言えよな?可愛いモン怖がってるのは意外だったけど、お前のことならなんでも知りてぇからよ。」
「蝉、鳴き声も、触るのも、むり…。見るだけでこわい…。」
素直にそれを認めて口にすれば、片方の手でよしよしと撫でてくれる宇髄さん。彼の手が大好きな私はそれだけで安心するのだが、如何せんあれほどまでに怒ってしまったので気まずさはひとしおなのだ。
「ん、分かった。じゃ、蝉がいたら俺が守ってやるからな。」
「…やくそく…。」
「ああ。約束する。」
蝉が怖いなんて情けない。
でも、だから言えなかったわけじゃない。ただ言うのを忘れていただけ。
この辺りは蝉が止まってる木が道端に生えてることも少なかった。久しぶりに目の当たりにして慌てふためいてしまったせいで、宇髄さんには悪いことをしてしまった。