第30章 "初めて"をください※
みーんみーん…
みーんみーんみーん…
みーんみーんみーんみーん……
眠くて眠くてたまらなかったと言うのに徐々に浮上していく意識の中、聞きたくない音が聞こえた気がして、目を覚ましたくないような…やっぱり覚ましたくないような。
でも、体に感じる温もりは多分、宇髄さんで彼の顔は見たいのだからやはり目を覚ましたいような…。
目を閉じたままでいるわけにもいかないので、意を決して目を開けてみれば、飛び込んできたのは大好きな美丈夫の顔
……と、すぐ彼が寄りかかる木のすぐ上あたりに奴がいた。
そう、奴が。
それを目に入れた瞬間、ゾワゾワ…といつ悪寒が身体中に走り、私は悲鳴を上げながら宇髄さんの胸に飛び込んだ。
「っひっ!!ひゃああああああああっ!!!」
「な、何だ何だ?!どうした?!鬼か?!……って昼じゃねぇか。何だよ、どうした?」
折角寝ていたところ申し訳ないとは思ったが、無理なものは無理なのだ。
無理無理無理無理…!!
「て、て、天元…、い、移動して…!お願い…!私を抱えたまま移動して…!」
「は?何で。此処涼しいだろ?休むなら持ってこいだろ?」
「いやいやいや、無理無理無理!!お願いお願いお願い!!」
「何だよ、理由を言えよ。急にどうした?」
理由…?!
理由なんて一つしかない。
でも、怖くてそちらを見ることもできない。
仕方なく、顔を埋めたまま彼の頭の上らへんを指差してみた。
見てもらえれば一目瞭然だ。お願い、見て察してくれ…!
「り、理由って…!そ、それ…。」
しかし、そんな私を嘲笑うかのように奴が飛び立つ瞬間におしっこをその手にかけてきたのだ。
突然飛び立ったこととおしっこをかけられたことでその場には私の再び断末魔の絶叫が響き渡った。
「いやぁあああああああああっ!!!むりーーーーーー!!!!」
「………は?ちょっと待て…。無理って…。は?」
「無理無理無理無理なの!無理なんだもん!!怖い怖い怖い怖い…!!」
「まさかとは思うけど…お前…あんな山奥で育ってたくせに…蝉が怖ぇの?」
そのまさかだけど、何か?!?!
確かに山奥で育ったから虫はたくさんいた。
奴も…いた。
でも、あまりに嫌いすぎて夏は正宗達を連れ立ってじゃないと出かけられないほどだったのだ。
折角この町には大きな木が少なくて安心していたのに!!