第30章 "初めて"をください※
宇髄さんは優しい。
誰が何と言おうと優しい。
優しいから私のことを心配して薬師として貢献すればいいんじゃないか?と言ってくれる。
私の身体を案じてだ。
でも、優しいから私が少し不満そうな顔をすればすぐに察して、漏れ出た本音を取り消してくれる。
私の心を案じて。
こんな優しい人がいるんだなぁと本当に思う。
私はいつもいつも彼に守られて過ごしてきた。
それはきっと彼も望んでいたから。
私を戦場に送りたくないと思ってくれているし、死んで欲しくないと思ってくれている。
ただ宇髄さんは分かってないことがある。
そう思ってくれていると同じくらい私もあなたに死んで欲しくないと思っていると言うことを。
同じように守りたいと思っていることに。
いざとなったら身を盾にしてでも彼を守ることが私の継子としての役目だと思っている。
それが鬼殺隊のためでもあると思っている。
柱が一人いなくなったらそれだけで士気は落ちる。それこそが鬼殺隊にとって致命傷だ。
絶対にこんなことを彼の前では言えないが、はっきり言葉にしてしまえば
"私の代わりはいくらでもいる"のだ。
私がいなくなっても薬なんて薬事書にすべて記してあるから誰でも作れる。
私がいなくなってもお館様の薬も処方箋と記録を見れば誰でも作れる。
私一人の戦力が無くなったところで代わりはたくさんいる。
でも、柱は違う。
音柱の代わりなんていない。
きっと宇髄さんは私のためなら命を懸けて守ろうとしてしまう。それが一番怖い。
だからこそ私は強くならないといけないのだ。
彼が私を守らなくてもいいように。
任せてもらえるように。
「じゃあさ、死なないようにちゃんと鍛錬付き合ってね?あんな甘々の鍛錬じゃなくて、厳しくしてくれないと私、死んじゃうよ〜?」
「ばっ!?ちょ、縁起でもねぇこと言うな!わぁーってるって…!でも、万が一の鍛錬中にお前に傷ができたら俺立ち直れねぇんだけど…」
この期に及んで何の心配をしているかと思えば、怪我の心配…?
だけど、宇髄さんの顔が真剣なので笑えてきてしまう。
最早、優しさを通り越して過保護だ。
傷なんて鬼殺隊士である以上、できても仕方ないことだ。