第30章 "初めて"をください※
ポロッとこぼれ落ちた本音を聞いたほの花は悲しげに笑って「そうなんだけど、ね。」と肩を落とす。
いや、違う。別にお前を認めてないわけじゃない。ちゃんと強くなってるし、剣士として十分戦えるとは思ってる。
せっかく、楽しい気分で鰻を食べていたのに余計のことを言ってしまったかもしれない。
「あー、まぁ、でもよ、別にお前がそうしたいなら止めねぇよ。ただ体には気をつけろよ。俺ほど体力ねぇんだから。」
「宇髄さんと一緒にされたらそりゃあそうだよ…!?そんな人ばかりだよ?!めちゃくちゃ頑丈だもん。半日で風邪治る人いないよ?!」
「あれはお前の薬がよく効いたんだわ。」
「いやいやいや!流石に半日で治ったって人聞いたことないから!!!」
呆れたように笑うほの花だけど、先ほどまでの落ち込んだような様子は払拭できたようでホッとした。
本音はやはり薬師としてやってほしい。お館様の命を繋いでるのはほの花だと言っても過言ではないし、鬼殺隊の薬は今やほとんどほの花の調合で担っていると言っていい。
それでも十分に鬼殺隊に貢献しているのだから自信を持っていいと言うのに、律儀ない奴だから俺の継子になった=お館様の命令という気持ちが強いのか剣士として役に立とうとしているのでヒヤヒヤしてたまらない。
この腕の中でどこにも行かせず守ってやりたいと思っているのは俺だけで、ほの花の望みとは真逆。
無理矢理言うことを聞かせることはできると思うが、それだとほの花は生きながらにして死んでるも同然。
俺とてほの花には生き生きとしていてほしい。
ちょうどいい着地点を模索していても結局立ち戻れば、彼女の想いを尊重してやろうと思ってしまう。
それは俺にとって茨の道だ。
大切な大切な女をこの手でどこまで守れるか。
ただでさえこぼれ落ちていった命は数知れず。
自分にとって必要不可欠な女であればあるほど、自分の首を絞めるのはわかっている。
「兎に角…死んだら絶対ェ殺すからな。」
「ちょ、こ、怖いこと此処で言わないでよぉ…!」
俺の願いはたったひとつ。
ほの花に俺より先に死んで欲しくない。
情けないと言われてもいい。
アイツが死ぬことを受け入れることなど恐らく無理だからだ。