第30章 "初めて"をください※
突然、ジッと見つめてきたかと思うと褒め殺しをしてくる俺の女。
だが、気に食わないのは自分に無頓着過ぎて、自分のことは棚上状態。こちらがどれだけ此処に来るまでの間、ほの花を見る男どもに牽制して来たか…。
こちらの苦労も知りもせずに、俺を褒めちぎるほの花に腹すら立つ。いや、褒められて嬉しい気持ちはあるが、自分が派手に色男なのは知ってるし、他人の視線には慣れている。
「お前はもっと自分がクソ可愛いって自覚して気を引き締めろ。また変な男に好かれちまうぞ。」
「はぁ?天元、何言ってるの?鰻冷めちゃうよ?食べよ?」
「いい度胸じゃねぇか、ほの花。お前は一生俺の隣を腰引き寄せて歩かせるからな!?」
「別にいいけど…?」
大して取り合ってくれないほの花に若干腹が立って苦言を呈したつもりなのに、嫌がるどころかニコニコ笑って了承してくれる彼女に肩透かしを喰らった。
「…な、は、は?お、俺を怒らせたらその場で口づけもしてやるからな?!」
「…うん?わかった。」
「え、いいのか?」
「うん。いいよ?だってそれいつもと変わらないじゃん。何でわざわざ聞くの?」
ほの花がさも当たり前のように放った言葉によーく自分の行いを思い出してみた。
そう言われれば…、いつもそうだっただろうか。
二人で外に出かけることが少ないのでお仕置きみたいな言い方をしてしまったが、コイツからしたら"いつものこと"なのだろう。
「…お前にだけは一生勝てる気しねぇわ…。」
「何言ってるのーー!!いつも勝ってるくせに!?嫌みなの?!むっかーー!!」
「はぁ?何の話だよ?!」
「何って…!鍛錬の話に決まってるでしょ?!私一回も勝ったことないんだよ?!酷いーー!!」
全く話は噛み合っていないが、胡蝶のところで機能訓練をしてきたほの花からしたら鍛錬の話にすり替わるのも無理はない。
正直、竈門炭治郎たちとこれ以上仲良くなられるのは嫌だが、同期たちとの共同鍛錬は楽しかったようでさっき話していたときは終始笑顔だった。
まぁ、いつも柱の俺に負け続けるよりは同期と切磋琢磨する鍛錬も楽しいし、刺激もあるのだろう。
怒って口を尖らせるほの花が可愛くて俺は口角を上げた。