第30章 "初めて"をください※
宇髄さんの馴染みの鰻屋さんに来るのは二度目。
此処の鰻はタレも甘すぎず絶妙で美味しいし、天然鰻はふわふわの食感の中に身に弾力もあっていい。
「うーんっ!!おいひい〜!!」
「だな。」
普段家だと隣に座っているのに、外食すれば前に座る宇髄さんを見るのは慣れなくて少し気恥ずかしい。あんなに美丈夫をまじまじと見てしまうのも慣れてしまえば平気だろうと思っていたのに、全く慣れないのだ。
出会ってからずっとこの素敵なご尊顔に見惚れるしかない。
「…宇髄さんって…ずるい。」
「は?何で?急に悪口かよ。」
「悪口じゃないよ!ずーーっと格好いいもん。毎日。四六時中格好いいもん。寝起きですら格好いいもん。ずるい…。」
こちとら朝は顔が浮腫んでると言うのにスッキリとした顔つきの宇髄さん。それなのに私より早く起きて寝顔を見られていることが多々ある。
不満を言葉にして宇髄さんにぶつければ、体を近づけて鼻を摘まれた。
「むぐっ…!な、な、!」
「お前にだけは言われたくねぇ。俺の気も知らねぇで、よくそんなこと言えんな?まぁ、確かに俺は派手に格好いいけどな!!」
言い終わるとすぐに鼻を離してくれたが、じんじんと痛むそこを手で撫でながらジト目で見上げた。
フフンと得意げな顔をする宇髄さんもまた格好よくて何も言い返すことはできずに、鰻に目を向けると、一口頬張る。
咀嚼しながらも見つめる先にいる彼は箸を止めて今度は私をじーっと見ている。
視線を鰻に戻しつつ、チラッと見ればまだこちらを見ているので頬張っていたそれを嚥下した。
「え、な、何かついてる?」
「ああ。クソ可愛い顔がついてる。」
「………揶揄うのやめてよー。食べにくいじゃん。」
「はぁ?さっきまで散々俺のこと褒めちぎってきたくせにどの口が言うんだよ。それに揶揄ってねぇわ!」
私があんなこと言ったから気遣って私のことも褒めてくれてるのは分かるけど、こちらは宇髄さんと違い、言われ慣れていないのだ。
何なら宇髄さんくらいのものだ。私のことを褒めちぎってくるのは。
正宗たちなんてずっと一緒にいるのに褒めてきたことなんて殆どないのだから。