第6章 君思ふ、それは必然
しかし、私は宇髄さんの継子。
毎日ここで生活できるのも彼のおかげであって、彼のお願いを聞かない理由など一つもない。
「この店に頼んであった物を取りに行ってくれ。ちょっと今から急遽任務が入っちまったんだが、今日取りに行くって言っちまってな。悪ぃけど頼むわ。」
渡された紙にはご丁寧に地図が書かれていて、宇髄さんがそれを私のために書いてくれたのかと思うとそんな紙すらとても愛おしく思ってしまう。
鬼殺隊の任務が入ったということならば、余計に断ることなどできやしない。
「分かりました。承ります!」
「重いもんでもねぇから大丈夫だとは思うが、念のため正宗たちも連れて行け。」
「えー?全然、一人で大丈夫ですよ!」
「師匠命令だ。分かったな?」
やっぱりちょっといつもの宇髄さんと違う気がする。いつもはこんなに"師匠"を前面に出してくることはない。
何なら「敬語なんていらねぇぜ!」っていうくらいの時もあるのに。
しかし、真剣な眼差しに視線を外すことができずに私はコクンと頷いてしまった。
本当にお遣いに行くくらい一人で行けるし、付いてきてもらう理由もない。
子どものお遣いじゃないのだ。
「じゃあ、頼んだぞ。ほの花。」
それなのにポンと頭に乗せられた大きな手は私を簡単に突き動かす。
ああ…やっぱり私はこの人が好きなんだ。
鍛錬中の真剣な表情も
一緒にいる時の柔らかい笑顔も
つらい時にいつもそばにいてくれる優しさも
この大きな手で私はいつも守られてきた。
そんな大好きで大好きでたまらない彼は大切な奥様がいらっしゃる。
何という皮肉なのだろう。
背丈があり、婚期を逃しつつある私がやっと見つけた自分よりも大きくて、外見だけでなく中身を見てくれる彼はもう先約済み。
でも、彼が大好きだが、その奥様たちもとても好きだからこそ…この想いを打ち明けることはないだろう。
ひょっとしたら嫁に行くべきなのかもしれない。
今更でも貰ってくれそうな清貴さんのところへ。
そうすれば全て丸く収まるのかもしれない。
何が正しいのかわからず、私はそんなどうしようもないことを考えていた。