第30章 "初めて"をください※
「あぁ!ごめん、ごめん!くさい?」
「薬草の匂いだろ?別にくさいってわけじゃねぇけど、ほの花のいつもの匂いが薄くなっててちょっと不満。」
宇髄さんが着物に顔を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐので恥ずかしくて体を離してしまう。
しかし、離れたのが気に入らなかったのか腰を引き寄せるとガッチリ彼の隣に止まらせられた。
「で?何で濡れてんの?」
「あのね、回復機能訓練ってやつ、やってみたくて私も参加させてもらったの!」
「?それと薬くさいのとどう関係があるんだよ。」
歩きながらも、上から降ってきた質問に再び彼を見上げて、ことの次第を話し始める。
あそこまでの大怪我をまだしたこともないし、回復機能訓練もしたことがなかったので物珍しかったのもあるけど、趣向の違う訓練は面白い。
湯呑みのお茶を掛け合う機能訓練の話をすると宇髄さんは興味深そうに頷いていたけど、私が濡れた理由まで話すと、目をパチクリとさせて笑い始めた。
「アッハハハハハハ!!何だよ、それ!馬鹿なの?お前。ハハハッ!ただ鈍臭いだけじゃねぇかよ。」
「そうなのー。流石に私も笑えてきた〜。」
「だろうな?それで薬くせぇわけな。鰻食った後で香り袋でも買ってやろうか?」
「うーん…その時気になったら〜。鰻の良い匂いが染み付いて必要ないかもよ?」
鰻屋さんと言うのは美味しそうなタレの匂いが店中に充満しているせいで、そこから出ればどこに行っていたのか一目瞭然だ。
香り袋の一つや二つ、私も持っているべきかもしれないけど、宇髄さんが気にならないのであれば必要ない。
「まぁ、俺はお前の匂いが一番好きだからよ。確かにいらねぇか。後ろの髪からはいつものほの花の匂いがするし。」
そう言うと後頭部に顔を近寄せて息を吸い込むので、顔が熱くてたまらない。
いくら好きでも匂いを嗅がれるのは恥ずかしいというものだ。
「や、やめてよぉ…!恥ずかしいじゃん。」
「何が恥ずかしいのか意味不明だぞ。花みたいに優しい匂いすんのが派手に好きなんだわ。仕方ねぇだろ?」
宇髄さんの背が高いことで簡単に背後を取られて後頭部に顔を寄せられてしまうが、幸せそうに匂いを嗅いでいる宇髄さんを見ると咎めることもできなかった。