第30章 "初めて"をください※
アオイちゃんが慌てて呼びにきたので、玄関先まで走って行くと宇髄さんが壁にもたれかかってこちらを見ていた。
その視線があまりに優しくて、愛おしそうに私のことを見てくれるものだから首を傾げた。
(…朝、此処にくるのをあれだけ嫌そうだったのに…。)
「宇髄さん!早かったね?」
玄関に降り立ち、履物を履きながら宇髄さんを見上げると目の前に屈んで、急に口づけをされた。
「…っん…。」
確か…周りには誰もいなかったと思うけど、頬に手を添えて慈しむように唇を喰む宇髄さんの肩におずおずと手を置いた。
機嫌が良いように見えたけど、若干違う気もしてきた。まるで私の存在を確認するかのような口づけに拒絶しようかと思ったけど、そのまま受け入れることにした。
数秒後に漸くその唇が離れたかと思うと、ぽんと頭を撫でられて穴が開きそうなほど見つめられる。
「…ど、どしたの…?」
「んー?ほの花迎えにきた。」
「あ、う、うん…。ありがとう…?」
私が履物を履いたのを確認すると、手を優しく引いて立ち上がらせてくれると、そのまま手を握られる。
大きな大きなその手が大好きな私は自然と頬が緩んでしまう。
「飯でも食いに行くか。たまには俺と逢瀬でもしようぜ。」
「…え…?!いつも家で会ってるよね…?」
「ばーか。俺だってお前と出歩いたりしてぇんだわ。最近、雛鶴たちか瑠璃としか出かけてねぇじゃん。俺ともしてくれよ。婚約者を放置すんなよな〜?」
「ほ、放置?!し、してないよ!してない!宇髄さんのことしか考えてないよ?」
婚約者を放置するだなんて恐れ多いことするわけがない。ただ宇髄さんとお出かけするのはなかなか時機が合わなくてできなかっただけのこと。
だけど、少しだけ…
ほんの少しだけ…
私がこの町に来るより前に彼らは此処に住んでいたわけで、いろんな人が四人が夫婦だと知っている。そんな中、突然現れた私が彼の隣に我が物顔をして居ると、周りの人に変な目で見られるのではないかと思うこともあった。
彼の隣を堂々と歩きたいと思う反面、彼だけが私を婚約者だと思ってくれたらいいと思ってもいた。
宇髄さんはそんな小さなこと気にしない人。
ただ私が気にしちゃうだけ。