第30章 "初めて"をください※
ほの花のことを守りたいと言うのは俺の自分本位の考えだ。
好きな女を守りたい。共に生き抜きたいからこそ。嫁にすると約束したから。
それなのに日に日に怖くなるのを悟られないように必死だった。大切すぎて失うのが怖くなった。
どんどん膨れ上がるそれに任務すら行かせたくなくて、必死に薬師として推すようになったのは恐らくほの花も気付いているだろう。
しかし、ほの花にも言っていないことがある。
それは、自分の任務にほの花を連れて行かないということ。本来、任務に同行させて手取り足取り指南をするのも師匠の役目だ。
それなのに俺は1度たりとも連れて行ったことはない。
それどころか実はほの花の同伴任務もこっそり断っていた。師匠としてあるまじき行為だと言うことはわかっているが無理だった。
理由は伊黒が言っていたことと相違ない。
いざという時職務を放棄して守りたくなってしまうからだ。
それでなければ此処まで任務が被らないなんてことはない。本来連れて行くべきだからだ。
継子を育てるとはそういうことだ。俺の責任でほの花と任務を同伴するべきなのだ。
だが、気付いた時にはもう無理だったんだ。
共に連れ立って行くなんて怖くてたまらなくなっていた。
失う怖さが上回って俺の中で勝手に壮大な妄想が繰り広げられてしまう。
「……確かに神楽はお前が守りたいって言ったらそう言うだろうな。お前の女にしては控えめな女だ。」
「おい、地味に失礼だぞ。」
「守ってやりたいのは分からなくはない。俺だってそうやって思う相手くらいいる。」
「ああ、甘露寺だろ?」
「………。」
無言で変な顔をしている伊黒だが、そんなもん甘露寺以外の全柱が気付いていることだ。今更隠しても意味がない。
「だけどなぁ、甘露寺は柱だもんな。ほの花より強ぇし、こっちよりは危険は少ねぇよな。」
「………そうだな。甘露寺だとし・た・ら・な!?」
「……おー、そうか。まぁ、いいや。どっちにしても俺はほの花が強かろうが弱かろうがきっと同じことで悩むと思うわ。」
もう此処まで溺愛してしまっているのだ。命の順序なんて超越してしまってるほの花を守りたいと言うのは俺の男としての我儘にすぎないのかもしれないが、捨て置くなんてできるはずがない。