第30章 "初めて"をください※
── 柱のお前と神楽じゃ、鬼殺隊の中での価値がまるで違う。もしもの時は捨て置く覚悟も持て。それが鬼殺隊の柱の責任でもある
伊黒の話が頭を何度もぐるぐるしている。
それは分かっていたことだ。
柱として責任を重視するならば、一番しなければいけないのは鬼の殲滅だ。
その時に万が一、ほの花の命に危険があったとしても優先すべきはそちらだろう。
だけど、男としての責任は違う。
好きな女を守ると言う責任は果たせない。
ほの花の命を犠牲にして、自分だけ生き残るなんて絶対に御免被る。
鬼の殲滅ができたとしても、自分も死んだようなものだ。そこに何の意味がある?
俺はアイツら三人と夫婦の契りを結んだ時、命の順序を決めている。
一番はアイツらだ。もちろんそれは今も変わらない。約束した以上守ると決めている。それは関係を解消したと言え変わらない。
次に一般人。
最後に自分だ。
だけど、ほの花はそんなものを超越してしまっている。この世に存在しないということを考えただけで頭がおかしくなりそうなほど。
柱として鬼殺隊に尽くすのは当たり前だ。
もちろんそれはわかっている。
たけど、その時俺が己の職務を全うできるかどうかはわからない。
ほの花がその場にいたら迷わず助けに行ってしまう気しかしない。
伊黒の忠告は柱として当然のことで、言われたからと言って腹が立つことはない。事実だからだ。
ただ約束ができない。それだけだ。
鬼殺隊のためにも
お館様のためにも
すべきことは分かっているのに、心がその時正しい判断ができるか分からない。
「…なぁ、伊黒。俺はさ、本当は出会うべきじゃなかったよな。ほの花と。」
「………俺は何も言えない。それは神楽とちゃんと話せ。」
「いや、話したらアイツはお前と同じことを言うに決まってる。答えはわかってるのに話してどうすんだよ。問題は…俺の気持ちの問題だ。」
出会うべきじゃなかった。
でも、出会ってしまい、愛してしまった。もう後戻りはできない。
俺がもっと強かったら、アイツを守って鬼も殲滅できるくらいの強さがあればいい。
でも、上弦の鬼相手にそうできるかどうか…。
答えは
否。
情けないが今の俺ではそれはできない。