第30章 "初めて"をください※
「知るか。神楽は綺麗な顔立ちをしているとは思うが、俺は別に断れる。行くなと言えばいいだけの話だろ?」
「バッカじゃねぇの?!お前、ほの花の可愛さが分かってねぇわ!!一度見つめられたら派手に死ぬ!死んでみろ!いや、死ぬな!見つめられるな!俺のほの花見るんじゃねぇ!」
「……お前頭大丈夫か。沸いてるぞ。」
音柱宇髄天元とはこんな男だっただろうか。
冷静沈着に鬼を殲滅する頼りになる男だったと思ったが…。
頭を抱えながら好いてる女の惚気を恥ずかしげもなく言い、わけのわからない妄言を言い出したとなればもう気が狂ったとしか思えない。
「俺は正気だわ!」
口を尖らせて不満を露わにしているが、こちらから見たら頭がおかしくなったとしか思えないのだ。
「神楽は浮気なんてするような女じゃないだろ!そこまで気にしなくとも大丈夫だろ?」
「ほの花の浮気なんて疑ってねぇわ。アイツに声かける男がいることに腹たってんの!俺のだぞ?!」
「ならとっとと打合せを終わらせて迎えに行ってやればいいだろう?こんなところで油打ってる暇があるのか?」
そう言えば「それもそうだな」と納得した様子で俺が見せた図面に目を通し出した。
先ほどまでのうつつを抜かした様子は何処へやら。
その真剣な眼差しは俺の知っている音柱宇髄天元だ。
ほの花が絡むと途端におかしくなるが、本来の性質は変わらないようだ。
「お前、神楽が関わると本当に見境ないな。そんなんで任務が一緒になったらどうするんだ。どっちも死ぬぞ。」
「…わぁーってるって。そん時はそん時だ。俺もほの花も覚悟はできてるからよ。ただアイツは俺が守る。」
「こんな言い方したくないが、柱のお前と神楽じゃ、鬼殺隊の中での価値がまるで違う。もしもの時は捨て置く覚悟も持て。それが鬼殺隊の柱の責任でもある。」
「…アイツを見捨てるくらいなら死んだほうがマシだね。悪ぃけどその忠告は聞かなかったことにするわ。」
ただでさえ隊士の質が落ちている今、柱の戦力は貴重なのだ。ほの花は薬師としてのが有能だし、もしもの時は優先されるべきは柱なのだが…、コイツに言っても聞く耳を持ちやしないだろう。真っ直ぐに見る瞳は決意に満ちていたから。