第30章 "初めて"をください※
「はぁ〜…。」
「おい、それやめろ。もう五回目だぞ。理由を聞いて欲しくてわざとしてるのか?」
「聞いてくれんのか、伊黒。それがよ…!」
「聞くとは言っていない。」
宇髄と任務の件で朝イチで打ち合わせの約束をしていたため、家に出向いてくれたのだが…。
来てくれたのはいいが、来てからずっと心ここに在らず。
挙げ句の果てに何度ため息を吐けば気が済むのだ。
褒めたくはないが、宇髄は豪快で男気のある性格。くよくよしたり、ネチネチしたりもしない。
それなのにこの状態だ。考えられることは一つしかない。
「どうせ神楽のことだろ。そんなことより此れが次の任務の…」
「今日さぁ〜、ほの花がよ、蝶屋敷に行ってんのよ。しかも、何でだと思う?!あの竈門炭治郎とかいう糞餓鬼とそのお仲間に会いに行ってんだわ!派手に不満が溜まるだろ?!」
俺は一言も話を聞くとは言っていないというのにベラベラと話し始めた宇髄にこちらがため息を吐く。
この男が神楽ほの花と言う継子を溺愛していて、嫁との関係を解消してまで自分のものにしたのは柱ならば周知の事実。
それまで此処まで嫉妬深い男だと言うことすら知らなかったが、神楽と出会ってからの宇髄は此処まで一途だったのか?と思うほどに彼女一人に熱を上げている。
だから今回も不満げなのは神楽が原因だと言うことは分かりきっていたが、話せば大体惚気。高確率で惚気。いや、ほぼ確実に惚気だ。
そんな面倒なことなど御免被る…
のだが、勝手に話し始める宇髄に頭を抱えるしかない。
「あー…あの餓鬼か。」
仕方なく、話を聞いてやることにしたら目を輝かせてズイッと近づいてきた。
「そう!あの糞餓鬼と同期だからってよ、馴れ馴れしく"ほの花"なんて呼びやがって。年下だろ?!しかもよ、そいつじゃねぇんだけど、別の同期がほの花を口説いたらしくてさ、派手に腹たってんの!俺は!!」
「ほぅ…そうか。」
「それなのによ、ほの花が会いに行きてぇなんて言いやがるからよぉ…!!あんなクソ可愛い顔でおねだりされたら断れねぇだろ…?なぁ、そうだよなぁ?」
ほら、結局惚気だ。
もう分かりきっていたことだが予想通りの分かりやすい宇髄に肩を落とした。