第30章 "初めて"をください※
「でも、お前強いんじゃねぇカヨ…。俺らが一本も取れなかったのにアイツの動きを止めて先に湯呑み取ったしよ…。」
今まで口を開かなかった伊之助がぽつりとつぶやいたので、そちらを見たけど猪のかぶりもので表情は窺い知れない。
でも、言葉の節々から悔しさが溢れ出ている。
やっぱりわたしは恵まれているのだろう。
あんな身近に音柱である宇髄さんがいて直々に指南を受けれるなんて最高の環境だ。
知らず知らずのうちに、鬼殺隊士としての実力は勝手に上がっていたのだろう。
カナヲちゃんだって強いし、先ほど湯呑みを取れたのは多分偶然だ。
何度もやれば互角だったと思う。
「そうだよね、悔しいよね。でも、私もきっと音柱様の鍛錬受けてなかったらみんなと同じだったと思うよ。絶対三人は強くなると思うから腐らずに頑張ってね。」
「……おぅ。」
負けることは悔しい。
私もかれこれ宇髄さんと出会ってからずっと負け続けているから毎回悔しさでいっぱいだけど、いつもそれ以上に甘やかしてくれる彼によってそんな気持ちはどこかに飛んでいってしまう。
でも、鍛練前に「あー、もう鍛練嫌だ、やりたくねぇ。お前と部屋でまぐわいたい」と毎回のように言うのはやめてほしい。
私に稽古するのが嫌なようで、駄々をこねる宇髄さんは本当に子どものよう。
何とか説得して稽古を始まる前が何から一番骨が折れるかもしれない。
始まってしまえさえすれば、宇髄さんも本気で私を扱いてくれるのだから別のつらさで大変だ。
しょんぼりと項垂れている伊之助に苦笑いを向けながら歩いていると、前から慌てた様子のアオイちゃんが走って戻ってきた。
「ほの花ちゃん!!」
「アオイちゃん?どうしたの?そんなに慌てて!」
「お、お、音柱様がお迎えにきたよ!?」
「ええ?!は、早っ?!」
確かに迎えに来るとは言っていたがまだここに来て数時間だ。
あまりの早さにアオイちゃんと顔を見合わせて放心状態だ。
「あー…じゃ、じゃあ残念だけどお昼ごはんはまた…ということで、アオイちゃん、炭治郎、善逸、伊之助、また来るね〜!」
「「「またねー!」」」
下を向いている伊之助以外に見送られて宇髄さんが待っているという玄関まで足早に向かった。
此処で待たせたら余計に怒られてしまうのが関の山だ。