第30章 "初めて"をください※
まずは硬くなった身体をほぐすための按摩。
それから薬湯の入った湯呑みを掛け合う反射訓練。
そして最後は全身訓練という名の鬼ごっこ。
呼吸を使えない私からしたらその訓練の内容を完全に理解することは難しい。
恐らく陰陽師の家系ということである程度は能力として備わっているようで、私は呼吸は使えないがある程度の呼吸と同等の基礎能力が備わっているようだった。
それが所謂陰陽道の基礎になるらしくて、此処にくる前にお兄様達と共にした訓練は無駄ではなかったということだ。
ただ、実戦で戦ったことがなかったので、そこからは宇髄さんによる地獄の鍛錬で技の習熟度と体術を極限まで極めた。
それはもうツラく苦しい鍛練の日々だったが、私の闘う術は周りにいた暖かい人たちによる指南によって成り立っているのだ。
基礎は実家での訓練。応用は宇髄さん。
此処に来たばかりのときは、ちゃんと戦えるのか不安ばかりだったが、"人を守る"と自信を持って言えるようになったのは間違いなく宇髄さんのおかげだ。
私はアオイちゃんとカナヲちゃんの両方と仲はいいけど、此処の中で一番戦力になるのは間違いなくカナヲちゃんだ。要するに一番強い。
本気で戦ったことはないから何ともいえないが、私よりも恐らく強いだろう。
式神やらあらゆる陰陽道を駆使すれば負けないかもしれないが、彼女にそれを向けることはまずないので、勝つこともないだろう。
思った通り、アオイちゃんには勝つことが出来ても最後に立ちはだかるカナヲちゃんに勝つことが出来ずに途方に暮れる三人を見ることになり、苦笑いを浮かべた。
「ねぇ、カナヲちゃん!私もやりたい!いい?」
そう思ったのは単純に回復機能訓練と言えど遊戯のような感覚で楽しそうに思えたから。
私の突然の申し出に目を見開いて驚きの表情を向けるカナヲちゃんだけど、すぐに微笑んで頷いてくれた。
「わぁい!やったぁ!」
私は了承してくれたことが嬉しくて目の前に座るとじっと彼女を見つめた。
カナヲちゃんはいつもニコニコしてるけど、表情の微妙な変化は読み取りにくい。
前に比べたらわかりやすくなったが、それでもわかりにくい方だろう。
お互いの気を探りながら相手の出方を見て、ただ静かに時が流れていくのを感じた。