第30章 "初めて"をください※
「はい。いいんじゃない?」瑠璃さんにそう言われて首を見ると、前に見えていた印はすっかり目立たなくなっていた。
恐らく後ろも綺麗に見えなくなっているのだろう。
「ありがとうございます!助かりました。」
「ま、昨日天元に意地悪したからそのせいでほの花が被害受けたのなら私の責任でもあるしね。」
「え…?あ、ああ!もう!本当ですよぉ!でも、喜んでくれましたよ!逆にその意地悪があったから余計に喜んでくれたのかもです。」
そうだった。
昨日、帰ってきたら瑠璃さんが宇髄さんに贈り物の反物を他の男性にあげたのでは?といったことで私の浮気を疑っていた彼。
結局は、浴衣をあげたことですっかり機嫌は良くなってくれたのだから、そのことは忘れていたが、大喜びしてくれた宇髄さんは子どものようにはしゃいでいて可愛かった。
何でそんなに私に贈り物をしたがるのだろう?と実は宇髄さんの気持ちはよくわからなかった。
ほしいものは無いから必要ないと言っていただけなのだが、自分があげたものを身につけてほしいという気持ちは今回彼に浴衣をあげてみて初めて分かった。
そして、それ以上に気づいてしまったのは、大好きな人の喜んでる顔が見られることほど嬉しいことはないということだ。
宇髄さんが喜んでくれるならまた何かあげたいと思った。それと同じなら、彼もきっと私の喜ぶ顔が見たいと思ってくれているのだろうか。
だとしたら"欲しいものはない"なんて言葉はきっと彼にとっては悲しい言葉だろう。
かと言って買ってもらいすぎもありがたみが薄れるので良くない。
だからこれからはもう少しお洒落にも興味を持とう。そうすれば自然と欲しいものも増えるのだろう。
「良かったじゃない。ほの花からの贈り物に簡単に機嫌を直すなんて子どもみたいな男ね。」
「あ、あはは…。それでもいいんです。彼が喜んでくれて…私が一番嬉しかったから。」
「そ?ほら、出かけるんでしょ?いってらっしゃい。」
瑠璃さんに促されて立ち上がると、部屋で準備をしていた宇髄さんに「行ってきます」と声をかけた。
既に怒りの色はなく、優しく頭を撫でてくれると一つ額に口づけをされた。
どちらかともなく顔を見合わせて笑うと、彼に見送られながら蝶屋敷に向かった。