第30章 "初めて"をください※
「瑠璃さん、ありがとうございますぅーー!!助かりました…!宇髄さん暴走気味だったので…。」
「別にいいけど、首だけでいい?とりあえず消しとくわね。出かけるんでしょ?」
「あ、は、はい!」
思わず、瑠璃さんに助けを求めてしまったのには自分自身驚いた。彼女とはいろいろあったけど、瑠璃さんが認めてくれたおかげでこんな風に頼りになるお姉さんのような存在になっている。
雛鶴さん達はどちらかと言えば、割と宇髄さんに従順というか苦言を呈したり面と向かって喧嘩ができるのは瑠璃さんの専売特許みたいなところがある。
だからついつい彼女に頼ってしまうのも致し方ないだろう。
瑠璃さんの部屋に連れていかれるとすぐに鏡台の前に座らされて白粉を手に首筋に付いている証を一つ一つ丁寧に覆ってくれる。
あまりに付けられることが普通になってきていたので、瑠璃さんに指摘されるまで気にもしていなかった。
「…はぁ…。アイツ、手加減ってものを知らないのかしら。猿じゃない。猿。」
「あ、あはは…?お猿さんより大きいですけどね…。」
「じゃあ、ゴリラよ。ゴリラ。」
「ご、ごりら…。」
あまりの言い草に笑いが込み上げてくるが、宇髄さんのことを信頼しているからこそこうやって悪口を言えるのだろう。
本当にどうでもいい人ならば無視すればいいのだから。
「ありがとうございます。私、瑠璃さんがいてくれて良かったです。」
「あんた、私に毒飲まされたくせにとんだお人好しよね。」
「瑠璃さんだって私のこと嫌いだった筈なのにこんなに優しくしてくれるなんてお人好しですよ〜。」
「…はいはい。勝手に言ってて。」
辛辣な言葉を言っていても鏡に映るその顔は優しくて、私も思わず顔を綻ばせる。
私の髪を避けて片側に寄せると他にも所有印が無いか確認してくれる。細かいところまで気配りができる瑠璃さんは本当はとても嫁としてすごく有能な人だと思う。
そんな彼女を断り、三人の素敵な奥様も関係を解消してくれた宇髄さんは私の何をそこまで評価してくれているのかは分からない。
それでも、私にできることは大好きな彼を後悔させないこと。
私なりに彼を幸せにすることだ。