第30章 "初めて"をください※
二度寝をかまして、7時過ぎに目が覚めたときほの花はもう既に着替えを終えて化粧をしてるところだった。
「あ、おはよう〜!」
「おー、はよ。」
「もうすぐごはんだって!顔洗ってきたら?」
「…お前、そんなばっちり化粧しなくてもいいんじゃねぇの?」
ここ最近やたらとちゃんと化粧をしているほの花に俺ですらドキドキとしていると言うのにこんなの糞餓鬼が見たら一瞬で恋に落ちるんじゃねぇの。
俺が心配で提案してみたことも困った顔をして「うーん」と唸ると首を振った。
「…しないと瑠璃さんに怒られるもん。お化粧したら瑠璃さんに見せに行かないといけないから…。」
「アイツはお前の母親かよ…。」
「あはは!母より厳しいです。」
瑠璃に教えてもらったみたいで、元々器用なほの花はあっという間に色香の漂う大人の女になっていく。
俺としては素顔が一番可愛いと思ってるのは変わらないけど、化粧した姿が嫌いというわけではない。
もちろん綺麗でずっと見ていても飽きないのだけど、自分の前だけでいいのに…という呆れた独占用の賜物だ。
大人げないことこの上ないのも重々承知しているので深呼吸を繰り返すことで何とか気持ちを治めていく。
「口説かれたら絶対言えよな?俺がビシッと言ってやるから。」
「……あー、うん。分かった。」
今の少しの間は何なんだ。
俺が気付かないわけがないだろうが。
鏡越しに見るほの花が若干目を逸らしたのが決定的だ。
(…俺も大概直感が冴えてるけど、お前、わかりやすすぎだからな。)
立ち上がって、ほの花の後ろに座り込むと後ろから抱きしめてやる。
「誰に口説かれてんの?」
「え?く、口説かれてるわけじゃないよ!」
「じゃあ何で目逸らしたんだよ?俺のこと見縊んなよ?お前のことなら何でもお見通しだ!」
後ろから顎を掴み、鏡越しに目線を合わせると気まずそうに苦笑いを浮かべて、化粧品を置いた。
「あのね、口説かれたわけじゃないけど、冗談で"結婚して〜"とか言われただけ。別に本気じゃないよ。面白いよね。」
いや、それ口説かれてるだろ。
冗談だとしてもそんなことを俺のほの花に言ったのであれば万死に値するっつーの。
相変わらず事の重大さにいまいち気づいていないほの花にため息を吐いた。