第30章 "初めて"をください※
私が贈った浴衣を纏った宇髄さんがあまりに格好良くて目を逸らしたくなったけど、目に焼き付けたい気もしてじっと見つめた。
でも、自分の選んだ浴衣を着てくれたことに嬉しさが込み上げてきて涙が溢れ出そうだった。
「何で泣きそうなわけ、お前は。」
「だ、だって…格好いいんだもん。」
「まぁな!俺は派手に良い男だからな!」
本当にそう思う。
宇髄さんは物凄く美丈夫だし、何を着ても似合うじゃないか。何故あんなに不安だったのだろう?今更ながら不思議だ。
「うん、だからそれにしたの。」
「??柄のことかよ?」
「うん。天元は元が美丈夫だから今回はそれを生かすために大人しめな柄にしてみました。やっぱり似合う!えへへ。格好いい〜!」
自分が選んだ物を好きな人が着てくれるってこんな嬉しいものなのか。
私は三百六十度全周目に焼き付けたくて、彼の周りをぐるーっと歩き出す。不思議そうにこちらを見ている宇髄さんだけど、構わず歩いていると3周目に差し掛かった時に腕を掴まれた。
「何してんの?」
「え?全方位から浴衣の天元を愛でてる!!!」
「……お、お前な…?」
「なに?なんか問題あった?」
折角、贈った浴衣を着てくれてるのだ。
この格好よさを目に焼き付けたいと思うのはおかしいことなのだろうか?
「問題っつーかよ、その発想はどこから出てくんの。」
「どこって…頭に決まってるじゃん。天元が格好良いんだから仕方ないよ!!」
「わ、わかった、わかったから…。お好きにドーゾ。終わったら一発ヤるぞ。」
「瑠璃さんが昼間っから盛るの禁止って言ってたよ?」
「ンなこと関係ねぇだろ?!俺は派手に溜まってんだぞ!?」
宇髄さんは必死の形相でこちらを見てくるが、隣の部屋には瑠璃さんがいるだろうし、今し方の時間からそんなことしようものなら怒られるに決まっている。
それに折角の浴衣姿なのだからもっと眺めていたい女心もあるので、一発ヤるなんて勿体無い。
「ねぇ、夜にしようよー?まだ見ていたいもん。天元、格好いいなぁ〜。似合ってるなぁ…。えへへへ…。」
「……(良いのか悪いのかもうわかんねぇ…)」
惚けた顔で宇髄さんを見ながらしばらく私は部屋の中を徘徊し続けたが、小一時間だった頃、彼に止められて漸くそれをやめたのだった。