第30章 "初めて"をください※
あー、くそ。顔がにやける。
瑠璃の野郎に一泡吹かされたかと思うと腹立たしいが、最早そんなことどうでもいいと思うほど嬉しくてたまらない。
別にほの花から贈り物が欲しいってわけじゃなかった。前にほの花が自分も何かあげたいと言ってくれていたのに先に他の男に贈り物を渡したことが腹立っていただけだ。
だけど、不意打ちに贈り物を貰ってしまうとニヤけた顔が元に戻らない。
好きな女に贈り物をもらうってこんなに嬉しいものなのかと思うほど。
それなのに目の前には俺の反応が怖いのか目を瞑って若干震えているほの花の姿。
本当にほの花らしい。
俺がコイツから貰って嬉しくないものなんてないのに。
ほの花がもし他の男に小石をあげたとしてもその小石をぶん取って俺のモノにするほどほの花がくれるモノなら何でも欲しい。
瑠璃の話で中身が反物だと言うことは分かってはいるが既に早く着たくて仕方ない。包みを開けながらほの花の頭を撫でてやった。
「そんな緊張すんなよ。馬鹿な奴。」
「だ、だって…!き、気に入らないならちゃんと言ってね?!私が着るし!あ…ちょ、ちょっと大きいけど…。」
「お前なぁ。俺のことなんだと思ってんの?気にいらねぇわけねぇだろ。」
コイツのことだから最終的に「雑巾にでもするから!」とか言ってきそうだ。呆れて物も言えねぇわ。
口を噤んで変な顔をしながらこちらを恨めしそうに見つめてくるが、もう何も言うまい。先に開けてしまおうと思い、全て包みを開け放つと品がいい浴衣が出てきた。
その色も柄もほの花が選んだって言うのが分かる物でまるでほの花自身のような浴衣に頬が緩んでいく。
何故こんなにも自信なさげになれるのだ。
俺のために一生懸命選んでくれたのだと言うことも分かるし、何より物も凄く気に入った。
「なぁ、ほの花。すげぇいいじゃん?何でそんな不安げなのお前は。」
「え…?!ほ、本当?!変じゃない?!趣味じゃないとか…大丈夫?」
「すげぇ気に入った。ありがとな。」
そう言えば漸くホッとしたような表情になったほの花をもう一度引き寄せて腕の中に閉じ込める。
今度は優しく慈しむように、彼女の体を抱きしめた。