第30章 "初めて"をください※
宇髄さんに浴衣の包みを渡した瞬間、腕を掴まれて抱き締められた。
これは…喜んで…くれてるのかな?
無言のままただ抱き締められているのが、その意味がわからないので黙っだまま彼の胸に顔を埋めている。
だが、ぎゅうううううという効果音がつきそうなほどキツく抱き締められるのでだんだん軋む骨に根を上げる。
「て、天元…!天元ーー!ほ、ほね!骨折れる…!!」
「あ、ああ….!悪ぃ悪ぃ!」
慌てて離してくれると、その解放感にホッとした。彼的には手加減をしてくれているのかもしれないが、こう言ってはなんだが、宇髄さんの力加減はぶっ壊れてると思う。
こんな全身筋肉の人に抱き締められたら普通の女の子は締め殺される。
鍛錬を積んでる私ですら死にそうだったと言うのに…。
「痛いよぉーー!死ぬじゃん!殺す気?!」
「殺すか!絶対死ぬなよ?!」
いや、"絶対死ぬなよ?"ってどの口が言うのだろうか。
今、下手したら三途の川を渡りかけたと言うのに。だが、それよりも今は床に落ちてしまった私からの贈り物だ。
中身を確認して、早く良いか悪いか判断して欲しい。でなければ本当の意味での安心にはならない。
私はそれを拾い上げるともう一度彼に手渡した。
「あの、どうぞ。気にいるか分からないけど…。」
「ああ。ありがとな。見なくても気にいるに決まってんだろ!ほの花がくれたんだぞ?!」
満面の笑みで喜んでくれる宇髄さんは子どものように可愛い。
こんなに喜んでくれるならもっと前にたくさん贈り物をすれば良かった。
恋愛に関してあまりに無知すぎてそこまで頭が回らなかった。
「開けていいか?」と聞かれると、一つ息を吐いてドキドキしながら頷く。
宇髄さんは本当にお洒落だし、見立ても良いから私なんかの感性で満足してくれるか不安で仕方ない。
趣味じゃないなんて言われたらもう絶望しかない。
包みを解いていく瞬間がこれほど緊張するなんて思いもしなかった。
私からしたら初めての経験なのだから当たり前だ。その姿を見ることもできずに、床の一点を見つめたまま正座をして彼の反応を待つことしかできない私は何と臆病なことか。
それでもどうしても彼を見ることができなかった。
終いには目まで瞑って時が過ぎるのを必死に待った。