第30章 "初めて"をください※
餓鬼に会いに行ったのは間違いなかったが、今度は竈門炭治郎以外の名前が出てきて頭を抱えた。
此処で堂々と言えると言うことは特にやましいことがないと言うことだとは思う。
しかし、帰ってきてから一番最初に会いたい女が別な場所で男と仲良くしていたと言うのは許しがたい。
どんな奴かも分からねぇのに、手を出されたら隊律違反であろうがぶん殴る勢いで許せねぇ。
「善逸ぅ?誰だそりゃ。」
「あの、ど、同期の子です…。」
「同期、ねぇ?」
同期同期同期…って…。どうしようもないことだが、俺の知らないほの花を知ってる男が腹立って仕方ない。
落ち着け、俺は大人だ。
普段ならなんとか許せるところだが、腹の虫が収まらない理由はやはり瑠璃が言ってた贈り物の件だ。
礼だろうが、詫びだろうがほの花から物を贈られることが単純に羨ましい。
自分だって欲しかった。
だけど、そんなことを子どもみたいに駄々をこねても格好悪いと言う物だ。
明らかに態度が悪い俺にビクビクしながら見上げるほの花の瞳は揺れている。
「…天元、何で怒ってるの?お、落ち着いて?」
「単刀直入に聞くけど。どっちに渡したわけ?」
極力、声を荒げないように心を落ち着かせて質問してみれば、苦笑いを浮かべるがその表情は全然慌てた素振りもなく穏やかだ。
そんなほの花に眉間に皺を寄せるが、おずおずと差し出してきた包みに首を傾げる。
「……?何だよ、これ。」
「天元、瑠璃さんに揶揄われただけだよ。私、誰にも贈り物なんてしてないよ。」
「……は?」
「天元以外の男の人に贈り物渡すわけないじゃん。天元に渡そうと思って瑠璃さんの部屋で預かってもらってたんだ。いつもありがとう。私から天元に…ひゃ…!」
言い終わる前に細い手を掴んで引き寄せると腕の中に閉じ込めていた。
顔を見られたくなかった。
嬉しくて嬉しくてニヤけた顔を見られたくなかった。
誤解して嫉妬まみれになった俺も見られたくなかった。
誰にも渡していなかったと言うことが嬉しかった。
自分に贈り物をくれたと言うことが嬉しかった。
愛してる女が自分のことを考えてくれたことが嬉しくてたまらなかった。
華奢な体を抱き締めると折れてしまいそうだけど、加減もできずに夢中で掻き抱いていた。