第30章 "初めて"をください※
どうしよう…。
まず、第一声は?
「おかえり!天元!」なんて明るく言えるだろうか。
「違うの!炭治郎には何にも渡してないよ!」も言い訳がましい。
事実だけを伝えればいいのだろうけど、イラついているだろう彼にちゃんと伝わるだろうか。
部屋の前でウロウロしていると、突然襖が開いて素晴らしく格好いい宇髄さんが満面の笑みでこちらを見下ろしていた。
「…ちーっとも入ってこないっつーことはなんか言い訳考えてんのか?ほの花。」
「め、滅相もございません!!!いま、入ろうと思っていました!!!おかかりなさいませ!!」
声が裏返ってしまった上に部屋の中に招き入れるために宇髄さんが入れるだけの空間を作ってくれたので手と足が同時に出るほどに緊張してしまっている。
「部屋の前で頑張って考えた言い訳だけは聞いてやる。」
「い、言い訳なんてそんな!やましいことは何一つありません!!」
「ふーん?じゃあ今まで何処で誰と会っていたか端的に言え。」
いや、これ絶対疑ってるじゃんーーー!!
反物を渡した云々もだけど、ひょっとしたら炭治郎と浮気でもしたかと思われてる?!
いや、確かに宇髄さんがいない日にお見舞いに行ったのはまずかったかもしれないけど、やましいからいない日を選んだわけではなく!
ただ宇髄さんがいなくて暇だったから行っただけの話。
「ちょ、蝶屋敷にいました。」
「何で?」
「た、炭治郎達のお見舞いと…薬の調合に…行ってました…。」
「お前は長期休暇中だろうが。薬の調合する必要あんのか。」
いやいや、そうですよね?!
宇髄さんからすれば休みなのにわざわざ薬の調合しに行くほどの仲なのか?と思われても仕方ないけど、善逸が苦いって言って文句言っていたことで薬師魂に火がついて、飲みやすい薬を調合したくなってしまったのだ。
そこにやましい気持ちは毛頭ない。
「…善逸って言う同期の子も入院してるんだけど…その子が薬が苦くて飲みにくいって言ってたのを聞いちゃって…。ちょっと薬師魂に火がついてしまいまして…。」
「…おいおい、此処でまた別の男出てくんのかよ。」
そう言って頭を抱える宇髄さんに、そういえば善逸のことは伝えたことがなかったと益々状況が悪くなったことに白目を剥きそうだ。