第30章 "初めて"をください※
善逸の薬の調合を終えると、真っ直ぐに屋敷まで帰ってきた。
カナヲちゃん達が機能訓練を担当してるみたいだし、邪魔はできない。
でも、今度ちょっと覗かせてもらおうかな。どんなことしてるか気になるや。
きっと呼吸の訓練なのだろうから陰陽師の家系の私は呼吸を扱うことはできないし、見ても出来ないだろうけど、興味はあるのだ。
宇髄さんはそろそろ帰ってくるだろうかとワクワクしながら歩いていると、屋敷の前に瑠璃さんが手を振って待っていてくれた。
確かに瑠璃さんとは最近、仲良くなったとはいえこんな風に外で待っていてくれたことなどない。
嬉しくなって小走りで近づくが、彼女のニヤニヤした顔を見て嫌な予感がした。
悪巧みが成功して笑いをこみ上げているような表情は何とも言えない気分にさせられる。
「おかえりっ、ほの花っ!ふふ、っ!あははっ!!」
「ど、どうしたんですか?何か私、おかしいですか?」
「違うのよ…!天元、帰ってるわよ…?」
笑いを堪えられずに笑い始めてしまった瑠璃さんがそれを止めることもせずに宇髄さんの帰宅を教えてくれる。
でも、その笑いが止まることがないところを見るに…宇髄さんと関係しているのだろうか。
益々嫌な予感がする。
「…瑠璃さん?何かしました?」
「んー?ちょっとね…。天元にしてやったりよ。あははっ!いい気味!スッキリしたわ〜!」
「物凄く嫌な予感しかしないんですけど…?」
「ああ、今日会いに行ったっていう男の子に反物でも贈ったのかしら?って言っただけよ。ふふ。私の部屋から浴衣持ってから部屋に行きなさいね。あっははっ!!」
大 問 題 !!!!!
瑠璃さんが今回の件で宇髄さんに仕返しをしてやりたいと思っていたのは知ってたけど、これでは私も巻き込まれるではないか。
いや、この様子では作戦を提案された時から私が良いと言うかどうかは置いといて、やる気満々だった筈だ。
ご満悦そうな顔をする瑠璃さんとは相反し、私の顔は見るも無惨な絶望な表情をしているだろう。
問題なのは私は瑠璃さんほど弁が立たないのだからうまく立ち回れるか分からないのだ。
余計に怒らせてしまうのではないかと思うと頭が痛い問題だ。
仕方なく瑠璃さんに連れられて部屋に向かうと浴衣を手にドス黒い空気が流れてくる宇髄さんの部屋の前に立ち尽くした。