第30章 "初めて"をください※
「薬の調合にでも行ったのかもしれねぇな。しゃーねぇか。」
「ねぇ?その子ってほの花と仲良いの?」
全くこの女は俺の苛つく言葉を平気で発してくる。仲が良いから見舞いに行くんだろうが。
アイツは行くなっつってもどうせ行きやがるし、此処は大人として少しくらい男と会うからと言って我慢すべきなのかもしれないが、任務帰りにほの花に会えないと言うことの苛つきは半端ないのだ。
「…別に。ただの同期だって言ってたけど、薬師だから怪我の具合が気になるんだろ。」
そうだ。ほの花は誰が見ても薬馬鹿だし、薬のことならば温泉の成分を研究するほど。
あの餓鬼が怪我して応急処置をしたのはほの花の筈だし、きっと治り具合が気になったに決まっている。
そう思ったのに、瑠璃から思いもよらない言葉が発せられて俺は息が止まるほど驚いた。
「…ふーん?そういえばこの前、着物仕立ててもらいに行った時、ほの花が男物の反物預かってたの。てっきり天元のものだと思ったんだけど、あんたちっとも着ないのね?」
「……は?」
「は?って…。あんたもらってないの?じゃあその男の子にあげたのかしら。確かに天元っぽい柄ではなかったし、何かの御礼かもしれないわね。」
そう言うと、そそくさと部屋に戻って行った瑠璃に"どういうことだ?"と詰め寄ることもできなかった。
あの餓鬼に反物を仕立てた?
瑠璃に着物を仕立てたのは任務前のことで日が経っていると言うのに俺はもらってない。
慌てて部屋に戻って襖という襖を全部調べたが、それらしい物は出てこない。
要するに此処にはもう無いということだ。
何かの御礼?
御礼って…何のだよ。
確かに仲が良いのは認めるけど、そんな反物を贈るほど仲が良かったのか?
ただでさえ腹が立っていたというのに悶々とした気持ちが体中を駆け巡り、唇を噛み締めた。
俺ですらほの花にそんな物もらったことがないと言うのに、自分以外の男に贈り物をしたなんて腑が煮え繰り返るほど腹が立つ。
御礼だったとしてもだ。
あんな餓鬼には大福でも投げつけておけば良いだろうが。
迎えに行って問いただそうにも事実を知るのも怖くて俺はただ部屋で待つことしかできなかった。