第1章 はじまりは突然に
──私は全てを話した。
里に帰ったらほぼ全ての人間が皆殺しにされていたこと。
父が兄を殺して食べていたこと。
虫の息だった母から産屋敷様のことを聞いたこと。
涙が止まらなくて、鳴咽ながらに話してさぞかし聴き取りにくかったことだろうに、産屋敷様は穏やかな顔をしたまま、ずっと聴いていてくれた。
その優しい穏やかな空気感にまるでこぼれ落ちるように言葉が出てきた。詰まりながらでも聴いてくれる彼に最後は泣き崩れ、顔なんて酷いことになっているだろう。
「そうか…。ところでお嬢さんは名前を何と言うのかな?」
そうだ、私はまだ名乗りもしていなかったと慌てて鼻水を啜ると"ほの花と申します"と頭を下げた。
「ほの花、つらかったね。もう大丈夫だよ。よくここまで来たね。肩の力を抜いて、僕の話も少し聞いてもらえるだろうか。」
産屋敷様は回廊にゆっくりと腰掛けると私たちにも座るように促した。いつの間にか美しい女性がお茶を持ってきてくれていてそれに口をつけると胸を撫で下ろした。
目的だったことを遂げて力が抜けたのか疲労感もある。
そんな私に女性が甘味をすすめてくれたが、先ほど知らない男性の胸で散々吐いた後だったので丁重にお断りして、彼の話に耳を傾けた。
その話は本当に現実なのか分からないようなことばかりで俄には信じ難い。しかし、産屋敷様が嘘を吐くような人にも見えずに私は何とかその話を咀嚼して飲み込もうとした。
「…鬼…、ですか。」
「うん。恐らく宗一郎さんは鬼にされたことでほの花の兄君を喰らったのだと思う。灯里さんもさぞかし無念だったことだろう。」
信じ難い内容でもスゥッと脳に入っていくのは最後に見たあの父の姿は化け物にしか見えなかったから。
…それが真実だと裏付けるだけの説得力があることで否が応でも納得せざるを得なかった。