第30章 "初めて"をください※
「え、え、え、…ほ、本当に?本当に恋人がいるの?ほの花…。」
善逸に目に涙を浮かべながら手を掴まれると、あまりに悲痛な表情に凄く悪いことをしたような気分にさせられる。
でも、此処で取り繕ってももう時既に遅しだ。
取り繕ったとしてもしのぶさんが嘘をついてるみたいになってしまうのだから、私の身の振り方は決まったも同然だ。
「…あ、あは、え、えと…うん。一応…。そうです。音柱様は私の恋人、です。」
「ああ、婚約者でもありますよね。ゆくゆくはご結婚されるとか。私もとても楽しみです。」
「そうなんだね?!ほの花おめでとう!音柱の人とは話したことないけど、ほの花が選んだのなら凄く良い人なんだろうね!」
もうどうにでもなれ…。
恋人であろうと、婚約者であろうと…。私と宇髄さんの関係がただの師匠と継子の関係ではないと言うことは既に明白だ。
「…う、うん。凄く素敵な人だよ。」
「まぁ、ちょっとほの花さんのことを溺愛し過ぎてるのが玉に瑕ですけど。怒らせると玄関を破壊されるらしいので皆さん気をつけてくださいね。」
それは間違いではない。
不死川さんの家の玄関を破壊したのは変えられない事実なのだから。
「何なんですか!?その人!めちゃくちゃじゃないですかァアアアアア!?ほの花ちゃん!やめた方がいいよ!そんな恐ろしい人!いやァアアアアア!!ほの花ちゃんがキズモノにされちゃうううううううっ!!」
「善逸くん、それはもう時既に遅しですよ。もうキズモノです。」
「し、しのぶさん…!!」
しのぶさん、やはり家でコトに及ぼうとしたことを怒っているのだろうか。
やたらと宇髄さんのことをつらつらと並べ立てるところを見るにあまり怒ってる気がする。
善逸の雄叫びが蝶屋敷中に響き渡る中、しのぶさんが炭治郎達に向き合うと、騒がしい空間に似つかわしい言葉が凛と響いた。
「では、そろそろ機能回復訓練に入りましょうか」
この状況で突然の訓練の発表に沈黙が流れたのは言うまでもない。