第30章 "初めて"をください※
物凄い勢いで帰って行った村田さんを見送ると相変わらず小さくて可愛らしいしのぶさんがにこにこと微笑んでいた。
「あら、ほの花さんもいらしてたんですね。お久しぶりです。」
「しのぶさん!お久しぶりです!」
「この前は宇髄さんのせいで全然お話できなかったから会えて嬉しいです。」
「あ、そうで………す、ね…!!」
しのぶさんのその発言で私は全身から汗が噴き出した。
そうだった。
そうだったぁああっ!!!
あの日以来だったのだ。
宇髄さんと久しぶりに此処で再会したかと思ったら押し倒されてまぐわう寸前のところをしのぶさんに見つかった。
そんなとんでもない現場を目撃されて、恥ずかしくてたまらない。
だらだらと汗が止まらない私にしのぶさんが「凄い汗ですよ?」と手拭いを差し出してくれた。
「あ、あ、ありがとうございます…。」
「ふふ。そんなに固まらなくても大丈夫ですよ。ほの花さんには怒ってませんから。宇髄さんのお盛んぶりには怒ってますけど。」
「あははは!!!す、すみません!ごめんなさい!申し訳ありません!!」
そんな発言をされたら、いくらなんでも此処にいる人たちにも私が継子という立場でありながら師匠と"そういう関係"だとバレてしまうではないか。
いや、隠してるわけではないがどうも照れ臭いし、継子という立場でうつつを抜かしているのが広まれば、それこそ先ほど村田さんが言っていた"隊士の質の低下"と言われかねない。
「ほの花はしのぶさんとも仲良しなんだねぇ?そっか。音柱っていう人の継子だから会う機会が多いんだね!」
「え、あ…、あはは。う、うん。」
「炭治郎くん。体の方はどうですか?」
「あ、はい!かなり良くなってきています!ありがとうございます。」
炭治郎が口を挟んでくれたおかげでその話題から避けられたことは助かった。
このまま続けば、彼との関係を暴露する羽目になるところだった。
しのぶさん達の会話に耳を傾けながら、途中だった薬の調合を再開させると善逸がこちらをじーっと見つめていた。
「…どうしたの?」
「ほの花って不思議な音がするなぁ。何か安心する音。初めての音だ。」
突然そんなことを言うものだから驚いた。
不思議な"音"がするなんて初めて言われたのだから当たり前だ。