第30章 "初めて"をください※
「薬の調合か…!あ、あのさ…音柱様は…その…お怒りじゃないかな?」
善逸の薬の調合を始めると村田さんがおずおずと様子を窺うように声をかけてきた。
急に宇髄さんの"ご機嫌はいかが?"と聞かれたことで首を傾げながら彼を見ると、その顔は物凄く怯えている。
いくらなんでもこの怯え方は余程のことがあったのだろう。
「え?いつのことですか?昨日から遠方の任務に行ってますけど、特に鬼殺隊のことで怒ってはいなかったと思います。」
「…あ、あの、柱合会議の後なんだけど…。俺、今回の任務の報告のために召喚されたんだ。」
「へぇーー!!そうだったんですね?宇髄さんから何も聞いてないので知りませんでした。んー…でも、そう言うことなら帰ってきた時は怒っていませんでしたよ。」
正直、その時私たちの中では瑠璃さんのことで頭がいっぱいだったと思う。
柱合会議で何を話したのかは分からないけど、炭治郎のことですら家に帰ったら話していなかったし、怒りを引きずるような性格ではないと思う。豪快で男気のあるのが宇髄さんの良いところだから。
特に仕事であれば益々引きずるようなことはしないだろう。
「そうなんだぁ…!良かった…!でも、地獄だった。柱が怖すぎて…。」
「えー?!そうなんですか?今回の任務ってそんなに大変だったんですね。炭治郎達も怪我がひどいし…。」
私は刀鍛冶の里でスペイン風邪の救護に行っていたため、全く知らないことだが、村田さんが顔面蒼白で話してくれた内容は隊士の質が落ちてるやらでピリピリしていたということ。
任務でも命令に従わない人もいたとかで、召喚された村田さんが矢面に立たされて相当怖かったのだろう。
ずっと愚痴をこぼしている。
「音柱様とは顔見知りなのにずっとイライラしてたみたいだから気になってたんだけど、神楽さんの話を聞いてちょっとホッとしたよ。ありがとう…。」
感謝をされるようなことではないのだが、明らかに心身薄弱している村田さんが気の毒になった。
気の利いた慰めも言えずにいたが、「こんにちは〜」という小鳥の囀りのような声が聴こえてくると、途端に立ち上がって帰っていった村田さんに、やはり大したことないのだろうかと苦笑いを浮かべるのだった。