第30章 "初めて"をください※
「ありがとうございます…!遠慮なく頂きます!今度何か御礼を…。」
「いらないわよ。前に紅も買ってもらってるし、この前着物も買ってくれたからもう良いわ。十分よ。」
鏡越しにひらひらと手を振っている瑠璃さんを見るとどうやら"お化粧ちぇっく"は終わったらしい。
ほっとした私は蝶屋敷に向かうため、部屋を出ようと襖を開けた。
すると、会話はまだ終わっていなかったのか、瑠璃さんの声を後頭部で受け取った。
「どこか行くの?」
白粉を叩きながら再び鏡越しに目を合わせる瑠璃さんをもう一度見ると口を開く。
「はい。お友達のところに行ってきます。怪我をして療養もしている子もいるので、お見舞いがてら。」
「ふーん。…男?」
顔をニヤニヤとさせながらこちらを見る瑠璃さんの表情で明らかに誤解をしていることが分かる。
確かに炭治郎たちのお見舞いも兼ねて行くつもりだったが、彼らは弟みたいなもので決して"男"として意識したことはないのだ。
「なっ、あ、あの!違いますからね?!男の子も、いますけど…!誤解をするような間柄ではありません!」
「何も言ってないじゃない。ムキになっちゃって逆に怪しいわよ。」
「…る、瑠璃さぁーん…!本当に…!」
ムキになって否定をすれば、そりゃあ逆に怪しいという彼女の意見は尤もで。何故ムキになってしまったのだろうと後悔をした。
だけど、炭治郎達のことは何とも思っていないのだが、彼らに会いに行ったことを宇髄さんが知ると物凄く怒りそうな気がするのだ。
柱合会議のあの空気の悪さと来たら身震いするほどだった。
鬼の妹さんを連れていると言う炭治郎のことを許せないと思っている柱の人は多いだろう。
だからといって、私は直接的に炭治郎に何かをされたわけでもなければ、その妹さんに被害を被ったわけでもない。
無害な友達は蔑ろにできない。
「分かってるって…。あんたは不義を働くなんて大それたこと出来やしないわ。揶揄っただけよ。馬鹿ね。」
「よかった…、で、でも…宇髄さんには内緒にしてくださいね?!どうせ怒るに決まってるんです…。」
「はいはい。分かってるわよ。いってらっしゃい。」
面倒になったのか、瑠璃さんは苦笑いをしながら手を振っているので、後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。