第30章 "初めて"をください※
宇髄さんは翌朝起きても隣にいなくて、やっぱり遠方の任務だったのだと分かると一日家にいても暇だし、また蝶屋敷にお邪魔しようと朝から準備をしていた。
ここ最近、毎日瑠璃さんの"お化粧ちぇっく"が入るので、いそいそと鏡台に向かう。
面倒なそれだけど、化粧をすれば少しだけ大人っぽく見えるのが少しだけ嬉しいと感じるようになっていた。
よく考えたら成人女性なわけで、嗜みとして化粧くらいちゃんとやるべきだったかもしれない。
"そのままでいい"と言う宇髄さんに甘えて、怠っていたような気もしないでもない。本当は自分がやりたくないだけなのを宇髄さんのせいにしていたのかも。
習った通りに顔に化粧品を塗りつけると、瑠璃さんから貸してもらった薄めの紅を差す。
借りてるのもアレだし…自分用に買った方がいいのだろうか。
化粧を終えると瑠璃さんのところに出向いて、"お化粧ちぇっく"をしてもらうのだが、これがまた厳しめなのでやり直しを喰らうこともしばしば。
再三、化粧のやり残しがないか確認をすると、瑠璃さんの元に向かった。
隣の部屋は私の部屋だったのにいつの間にか瑠璃さんの部屋に定着していて、最早私が宇髄さんの部屋にいても何の違和感もない。
しかも、そこにいれば宇髄さんが凄く機嫌も良いのだからこれはこれで有りなのかもしれないと思っている。
ただ、着替えの時は外に出てもらっている。婚約者といえど、着替えは恥ずかしいのだが、その度にめちゃくちゃ不満そうな顔を向けられるのももう慣れたものだ。
「瑠璃さーん!ほの花です〜!お化粧しました〜。」
「入って。」
中から入っても良いという了承ももらったところで襖を開けると、ちょうど瑠璃さんもお化粧中だった。
鏡越しに見る瑠璃さんがニコッと笑ってくれると女同士なのにドキッとする。
あんな色気はないけど、するとしないのとではやはり全く心持ちが違う。
「あら、ちょっとはマシになってきたじゃない。紅もあんたに似合うからあげるわ。私には薄すぎるし。」
「え…?!いいんですか?」
「ええ。薄すぎるからあんまり使ってなかったけど、ほの花にはちょうどいいからね。」
買おうかと思っていたところに思ってもいない申し出に、私は迷わず受け取ることにした。
この色なら付けていても羞恥心が少なくて済むのだ。