第29章 停戦協定※
出かける前に化粧した姿を見せに来てくれるかと思いきや、さっさと五人で支度して出て行ってしまったことで、不満が溜まっている。
仕方なく任務の報告書をまとめてから、庭で掃除をしていた正宗たちと話しながら縁側でぼーっと空を見あげていた。
「…あー、早く帰ってこねぇかなぁ。派手にほの花不足だ。」
「…あの、まだ数時間ですよね?」
「……そうか。もう数日経ったか。そりゃほの花不足にもなるよな。」
「………(もう何も言うまい)」
会話をしてくれていた隆元が口を噤んだことで、聴こえてきた足音に体を起こす。
耳が良いのは良し悪しだ。
ほの花の足音ならすぐに分かるのは良いのだが、そこに混ざっているのが雛鶴たちのそれだけでないことに眉間に皺を寄せる。
しかも、野太い声まで聴こえてきやがる。
「…チッ…、いい度胸だ。一発、ぶん殴ってやらぁ…。」
「…え?宇髄様?!」
突然、走り出した俺を呼び止める声が聞こえてきたが、屋根伝いに声のする方に飛んでいくとやはりほの花を取り囲むように男たちがいることに拳を握り締めた。
それなのにぽけーっとしていたのか、ほの花が転びかけたので殴るよりも先にそちらに気を取られた。
間一髪、抱き止めてホッとしたのも束の間、周りの男たちを睨みつけたが、何故か満面の笑みで跪いたその男たちに首を傾げる。
いくらなんでもそんな態度を取られるようなことはしていないと言うのに、キラキラと効果音がつきそうなほどの眼差しを向けられると顔を引き攣らせることしかできない。
しかも、ほの花に手を出す輩かと思いきや、何故か「姐さん」と呼ばれている。
それだけで恋とか愛とかそう言う類のものとは別次元の問題だと言うことだけは分かる。
「旦那!!今後の姐さんの身辺は俺らが守りますんで安心してください!!」
「…お、おお…、とりあえず…上がれ。」
大の男たちが家の前で跪いて、デカい声を上げていると流石に通行人に変な目で見られる。
仕方なく、そいつらを客間に通して茶を出すことにした。