第29章 停戦協定※
「いいんじゃない?天元に似合いそうよ。大体、アイツは今が派手すぎるのよ。それくらいに落ち着いてくれた方がほの花と均整とれていいわよ。」
意外にもいち早く口を開いてくれたのは瑠璃さんで私の横に並ぶとその浴衣を手に取りそう言ってくれた。
「…あんたは地味すぎるけどね。」
「む…、す、すみません。」
結局苦言を呈されたが、瑠璃さんの後押しを受けると少しだけホッとした。
須磨さんが「ごめんなさい〜」と謝ってくれたけど、謝るようなことでもないので笑顔を返す。
先ほどまでは気に入らなければどうしようと嘆いていたというのに、いざ仕上がった浴衣を見るとそれを着た宇髄さんが早く見たくなってしまう。
気に入らなければどうしよう…という不安を残しつつもやはり好きな人の喜ぶ顔は見たいものだ。
採寸の準備をして来てくれた女将さんが瑠璃さんの採寸をするが、部屋の中には百を超える生地が所狭しと並べられているというのにものの数分で生地を選んだ彼女に舌を巻く。
「…え、選ぶの早いですね…。」
「だってこれが気に入ったんだもの。いいでしょ。はい。宜しく。」
「あ、は、はい。」
こんな風に自分の似合うものがちゃんと分かってるのは羨ましい。
瑠璃さんが選んだそれは彼女によく合っていたし、私のように決められなくて宇髄さんに泣きつくような面倒くさい様子もない。
「あんたはね、ちょっとあれこれ考えすぎなのよ。直感で選べば良いじゃない。」
「そう言われましても…その直感に自信がないんですよぉ…。似合ってない物を纏わなければならないくらいなら地味なもののほうが当たり障りないじゃないですか。」
「似合うとか似合わないとか…関係ある?着たいものを着れば良いの。着たいものを着てれば似合ってるも同然よ。」
「…はわぁ…、な、なるほど…。勉強になります。」
瑠璃さんの意見はお洒落上級者の台詞だ。
そもそもその域に達していない私が選んだものが後ろ指差されるほどの物なら目も当てられないだろう。
仕立てるのに二週間程かかると言われたのでまたその頃取りに来る旨を伝えると、仕上がった浴衣をそれぞれ持って、支払いをして店を出た。