第29章 停戦協定※
「いらっしゃいませ。どうぞ。」
いつもの女将さんが店内に通してくれるので、店先にいた店主に挨拶をして中に入った。
頭の中は宇髄さんにどうやって渡したら良いかということでいっぱいだが、とりあえずは目的を果たさなければいけない。
「あの、女将さん。今日は引き取りだけでなくて、この方に着物を一つ仕立ててほしくて…。」
「あら、承知致しました。お友達ですか?ほの花さんのお友達は皆様美人揃いですね。採寸致しますので少々お待ちください。」
「宜しくお願いします。」
奥の部屋に入ると、並べてあったのは私たちが頼んだ浴衣。
可愛らしい浴衣が並んでる横に、私が宇髄さんに選んだ物が置いてあって顔が熱くなる。
(…ああああ、絶対似合う…。想像しただけで涎出そう…。)
気にいる気に入らない云々の前に宇髄さんは美丈夫だから、やはりそれが似合うだろうという妄想が先に来て口元がニヤけてしまう。
「あ、天元様に渡すやつこれですね?!」
「わぁ!!天元様にしてはおとなしめだけど、ほの花さんが選んだってことに意味がありますぅ!!」
「ちょっと!須磨!あんたまた余計なことを!!」
再び、そこで喧嘩が勃発しそうだったので素早く間に入って二人を窘める。須磨さんの意見は尤もで、私も最初そう思ったから全然気にしていない。分かってて選んだのだから。
「良いんです、まきをさん!私もそう思ってますから。」
「ほの花さん、でも…、須磨ったら…。」
「私も最初もう少し派手な柄にしようと思ったんですけど、宇髄さんは美丈夫だし、控えめな柄のが顔が引き立つなぁって思ったのといつも自分が選ばないようなものをあげたら私のこと思い出してくれるかな…って。だから須磨さんの意見は正解です。」
そう。宇髄さんにとっては地味だと感じるかもしれないけど、私が選んだものをそれを見る度に思い出してほしいから。
それは私の中にある隠れた独占欲だ。
表立って独占欲を露わにしてくれる宇髄さんだけど、私だって独占欲はある。
私が選んだ物を身につけてくれている時だけでも私のことを思い出してくれたら嬉しいなと思った。
私の代わりに宇髄さんを抱きしめてくれれば良い。
無欲なんかじゃない。
私は物凄く強欲な女だ。