第29章 停戦協定※
瑠璃さんにお化粧をしてもらって、髪を丁寧に結い上げられると、鏡に映っている自分が自分じゃないみたいで恥ずかしい。
この前、宇髄さんと仲直りした時ほど濃くはないけど、それでもいつもの自分がしている化粧と比べたら雲泥の差だ。
「ほの花さん〜!可愛いですよぉ!天元様もきっと喜びます!!見せに行きましょー!?」
「駄目よ、須磨。天元に襲われるのが関の山よ。どうせあんた追い返されるに決まってるんだから。」
「…あー…、わ、わかりましたぁ。」
宇髄さんに笑われないか心配だけど、瑠璃さんの言っていることも何となく理解できるので、私たちは誰にも会うことなく、玄関で「行ってきまーす」と声だけかけて出かけた。
女の子五人で出かけたことなんてもちろん初めてのことで、右を見ても左を見ても可愛い女の子に囲まれているのは何と役得か。
男性の気持ちが分かるようだ。
今回、呉服屋さんに行く理由は瑠璃さんの着物を仕立てることが目的だが、ついでにこの前仕立ててもらった三人の元奥様達の浴衣を取りに行くため五人でぞろぞろと出かけた次第だ。
花火大会のために仕立てたものだが、思ったよりも刀鍛冶の里での任務が早く終わったので日程までは余裕がある。
私も宇髄さんに仕立ててもらった浴衣があるので着るのが待ち遠しいがひと月ほど待たなければいけない。
「ほの花さん、そういえば天元様の浴衣も仕上がってますよね?帰ったらお渡しになるんですか?」
しかし、まきをさんが顔を覗かせて発した言葉に私は目を見開いた。
…そうだった。
私、彼にも浴衣を仕立てたのだった。
うっかり忘れていた。
いや、忘れるなんて失礼だが、仕立てたことで満足して渡した気になっていたのだ。
本当は驚かせようと思って当日に渡そうかと思ったが…、よく考えたらその前に宇髄さんにバレる気がしてならない。
「あら、そうなの?いつ来ていくのよ?夏祭りでもあるの?」
「この辺りは来月に夏祭りと花火大会があるんですよ。そのために私たちにもほの花さんが浴衣を仕立ててくださったんです。その時に天元様のも内緒で仕立てたんですよね〜?ふふ。」
雛鶴さんと瑠璃さんの会話が遠くに聞こえる。
彼に渡さなければいけないという一大行事が控えていると思うと気が滅入る。